そしてある晩、私はふらりと離れへと向かい、枯れ枝が溜めてある場所に火を点けました。
森の家の生活で、薪に火をできるだけ速く点ける方法は私も知っていました。
私は森の家で、貴女ほどに覚えたことは少ないですが、それでもそのくらいは身体に染みついていました。
火口とする新聞紙にランプの油を染みこませ、マッチを厨房から拝借して、離れへと足を進めました。
毎日のダンスの練習で疲れ果てた足ですが、それでもよく動きました。
枯れ枝に点いた火は一気に大きくなりました。
沢山溜まっていたということもあるのですが、その頃空気が乾いていて、風も吹いていたということが大きかったのです。
ただ私の誤算は風向きでした。
離れの館に、火の勢いは届きませんでした。
その代わり、林に向かってその勢いは増して行きました。
大騒ぎになりました。
そして使用人だけでなく、マンダリンも。
私は皆の騒ぐ声で、唐突に恐怖にかられ、再び本宅へと走り戻りました。
幸いというか、私が抜け出していたことは誰にも知られなかったのです。
私は自分のしたことが怖くて、すぐに寝床に入ってしまいました。
ばあやに寝坊を怒られながら少しいつもより遅い時間に目覚めると、離れが大変なことになったということを聞きました。
そしてマンダリンが死んだということも。
何故、と私はばあやに聞きました。
ばあやは私がマンダリンに対していい感情を持っていないということを、単に住まわせている愛人だから、ということで納得していたようです。すぐに答えてくれました。
するとこう言われました。
「毒のある木にも火が点いたということでしてね。その時出た煙を吸い込みすぎたということで、あのひとは死んだということですよ」
毒のある木。
私は知りませんでした。そんなものがあるとは。
彼女の葬儀とか離れの改修とかで、何日か、私の教育の方も休みになりました。
ああやっとマリアと遊ぶことができる、とその時の私は簡単に考えていました。
ですがマリア、貴女はとても悲しんでいた。
そして貴女は言いました。
「あのね、キョウチクトウ、あれが燃えたの。いつもマンダリンに言われてたの。あれは花も葉も木の幹にもぜんぶ毒があるから、気をつけて、って。薪にもできないから、別のところにまとめているくらいなの。なのにそれに火がついて」
キョウチクトウ。
私はそれから貴女を連れてのお悔やみに行きました。
そして貴女が、それがどの木なのか、教えてくれました。
きついピンクの鮮やかな花と、クリームがかった白い花。
一つ一つは雨風でぽとぽとと落ちるくらいのものなのに、虫一つつかない毒の木。
細長い葉はつやつやと、何ものをも寄せ付けない強さを持っているかの様でした。