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第50話 母夫人の手紙(2)

 先日は話さなかったのですが、私が旦那様のところに売られた(あえてこう言います)のは、今の貴女より三つ下の時でした。

 だから、この間言った読み書き計算と着こなしの類い、というのは…… あくまで、その時点のものです。

 侯爵は元々私のお母様に懸想していたのです。

 だけど私を産んでお母様は亡くなってしまった。

 それからずっと侯爵は私が育つのを待っていたそうです。

 その頃にはきっと男爵家の財政も苦しくなることが判っていたのでしょう。

 そして私が一応子供から女性に替わる頃、お父様に話を持ちかけてきたのです。

 支援するから、あの歌姫の娘をくれないか、と。

 お父様は悩んだそうです。あと数年待ってくれないか、と。

 だけど侯爵はこう言ったそうです。

 自分は十三年も待った。歌姫を死なせた男爵に何の言い分がある、と。

 もし歌姫が生きていたならば、お父様から奪い取っていたということでしょう。

 お母様が果たして侯爵にどういう思いでいたかは判りません。

 お母様に関する記憶も残されたものも殆ど無かったのですから。

 十三年生きてきて、子供が産める身体になったということをばあやがお父様に報告しました。

 彼女を責めることはできません。それが彼女の役目であり、別に父親に知らせることはおかしいことではないのですから。

 ただそれを聞いた途端、侯爵は私を求めてきました。

 結局お父様は侯爵に負けました。

 金銭的圧力をかけてもいたのです。

 当初は男爵家の本宅に私は引き移り、そこに侯爵が通うことになりました。

 そこでお父様もばあやも、抵抗はしないように、と私に言い含めました。

 突然やってきた侯爵は、その頃の私にとっては見知らぬ男に過ぎません。

 しかも二十代の男など、その時の私にとっては未知の生物です。

 街の少年や青年は知っています。

 だけど私のことはあくまで「お嬢ちゃん」で、それ以上の扱いはしたことがありませんでした。

 後で聞く話だと、裕福な商人とかも、お父様に言い寄っていたそうです。

 大人になったらあの娘を欲しい、正妻にするから、と。

 ですがさすがに男爵の誇りがあったのでしょう。どちらが正しいのか、私には判りませんが。

 最初の夜が過ぎ去った後は、何が何だか判りませんでした。

 考えようにも、侯爵はこれでもかとばかりに毎日の様にやってきました。

 そしてその結果として、貴女をみごもったのです。

 十四の誕生日が来るか来たか、という辺りです。

 そこで侯爵は私を森の家に移しました。

 男爵邸で産ます訳にはいかない、とばかりに。

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