愛しい娘マリア。
これを読む頃には私はもう貴女の手の届かない場所に居ます。
直接話すには心があふれて様々なことがあっちに行ったりこっちに行ったりしそうだし、時間も無いことですから、貴女に対しては初めてですが、手紙にします。
何処からお話すれば良いでしょうね。
とても難しいです。
話したいことは沢山あります。
ですが、たぶんこの手紙で最初に書かなくてはならないのは、このことだと思います。
ごめんなさい。
貴女が大好きだったマンダリンを死なせたのは私です。
引いては、そのせいでシリアがマンダリンの代わりで旦那様のお立場のために必要な毒を作らなくてはならなくなったこと。
遡れば私のせいなのです。
そう、あの離れでの火事。
マンダリンがキョウチクトウの煙を吸って亡くなった、あの火事です。
あの時火を点けたのは私なのです。
何故、と貴女は思うかもしれないですね。
でも、あの頃の私はどうかしていたのです。
言い訳にもなりませんが、いつもいつも、あああの女さえ居なければ、という思いで頭が一杯でした。
森の家からこの屋敷に来てから、私は貴女の面倒をまるで見てやることができなかった。
侯爵夫人としての教育がとても忙しくて。
今までのほほんと男爵令嬢から、更に気楽な森の家の居候だった日々の付けが回ってきたのでしょうか。
その辺りは判りません。
旦那様は、もし奥様がご存命だったら、私をずっと森の家に住み着かせておいたでしょうから。
ですが、旦那様は先の奥様を手にかけてしまったのです。
シリアの作るものよりもっと巧妙なマンダリンの毒で。
マンダリンは毒を作ることをどの様に了承していたのか判りません。
私は彼女と直接話をしたこともありませんから。
ただもう、旦那様や貴女から聞く話の中の彼女、それが全てでした。
今思えば、貴女の様に、離れに行って話の一つでもできていたら違ったかもしれません。
でもあの頃は、もうただ、詰め込まれるマナーや会話やダンスやピアノや歌や…… 引いてはその場その場に合った服を自分で選んで購入するとか。
私が社交界に出ても恥ずかしくない、と旦那様が太鼓判を押すようになるまで、ざっと一年かかりました。
あの頃、マリア、貴女が私に構って欲しいとやってきても、邪険にすることしかできなかった。
することが一杯で、慣れないことに毎日毎日くたくたになって、ダンスの音楽もピアノの音に似たものも聞きたくないという心境でした。
ええ、まだ小さな貴女の声すらも、その頃の私には辛かったのです。