「扉は鍵がかかっていまして、重いものですので、大きなハンマーを持って来なくてはなりませんでした。その上で息を止め、窓のガラスというガラスを壊し、風を存分に入れた上で、ようやく現場を調べることができました。ただ不思議だったのは、内側から鍵を掛けたのに、内側から開かなかったということなのですよ」
確かばあやもそう言った。
だから私は首を傾げた。
「同じ棟の私の部屋も、内側から鍵はかかりますが、開けようと思えば開きます。お父様は何故扉を開けることができなかったんでしょう?」
「それがですな、お嬢さん。扉に細工がしてありました」
「細工?」
こちらへ、と私は壊された扉の放置されてある場所へと案内される。
「ここです」
役人は扉のハンドル部分を指さす。
「通常の扉は、捻ると中のボルトが引っ込む作りになっているのですが、この扉はそこが動かなくなっているのです」
いいですか、と許可を取って私は回そうとしてみる。
確かに動かない。
「でもお母様が扉を閉めた時点では動いたのでしょう? でなくちゃ、中に入れないはずでは」
「ご覧下さい」
ネジ回しでもって、ドアノブ自体を扉から外し出す。
すると、ボルトの部分にべったりと半透明な何かが固まっていた。
「速乾性の、工事用に使われる樹脂です。ボルトの部分に流し込まれていたという訳です。そうですな、大概のこういう大きな家では用意されているものではないですか。屋根や壁の修繕にも使われるものですし」
「速乾性…… ってことは、すぐ乾くものですよね。それに臭いとかしませんか?」
「ボルトさえ留めてしまえばいいんですから、量は大したものではないでしょう。そして乾く時間も、つけてすぐ、という訳にはいきませんが、中で何かしら話をしているうちに、暖炉で炊いていた薪から煙りがあふれてくるような時間が経つまでには接着できた、ということでしょう。この様子ですと、侯爵は逃げようとした訳ですし、そちらの使用人の話からしてて、夫人のやったことでしょう」
「……そうなんでしょうね」
「そして直接の原因であるキョウチクトウなんですが、その時間稼ぎのためでしょうか、普通の枯れ枝が一番上、その次に通常の薪と、切ってから年月の経ったキョウチクトウの太い枯れ木、そしてその下にまだ青い、切れば樹液が染み出てくる様なものが葉付きで敷かれていました」
なるほど。
まずは下の薪に火を点けるために、乾いた通常の小枝を。
そして着火したら、キョウチクトウも交えて。
ただきっとお母様にはそれだけで、という確信は無かったのだろう。
その下に、最も毒性が強いだろう生木を加えた。
生木は何よりも煙が出る。
それは私も良く知っている。
マンダリンが死んだのは、そのせいだったのだから。
そう。お母様から私への手紙には。こう書かれていたのだ。
「あの時火を点けたのは私でした」
と。