火は閉ざされた部屋とその周囲を一晩かけて焼き尽くし、やがて自然に治まった。
私達は離れで冷えない様に天幕に焚き火、そして離れの倉庫から持ち出した毛布と炊き出しで、皆その晩をしのいだ。
朝の光が見えた時には、張っていた気持ちが一気に緩んで私は一気に睡魔が襲ってくるのを感じた。
いや、それだけではない。
天幕の中、ランプの灯りで読んだお母様の手紙のせいでもあろう。
エリアお姉様の方の手紙も見せてもらった。
内容は基本的にはこんなことをしてしまって済まないという謝罪。
また、真の今回の毒殺の首謀者である侯爵を連れて行くので、異母妹であるシリアを助けて欲しい、というお願い。
自分達の存在が先の夫人を死なせてしまったのではないか、という後悔と謝罪。
そして最後に、次の女侯爵として、この家を守ってくれると嬉しい、ということだった。
「つまり侯爵として、貴女をどうするのかも決めて欲しいということだけど」
エリアお姉様は炊き出しのスープを口にしながらそう言った。
「カップで飲むというのもなかなかいいものね。温かいままスープが味わえるわ」
「ええそうです」
だからこそ、厨房で皆と食事をする方が好きだったのだ。
わざわざ専用の部屋に運ばれてくる間に冷めてしまう料理より、あつあつの鍋から注いだばかりのスープが好きだった様に。
焼いた肉の、美しい断面の一枚より、塊の端の方が美味しいと感じてしまう私には、どうしても。
「夫人の最期のお願いね。シリアのことは、今日やって来る司法省の役人には仮ではあるけど当主として、その様に告げておかなくては。こういった罪の場合、シリアはあくまで武器の様なもの。罰せられるのは、その武器を使う方でなくてはならないわ。そして夫人は私の目的も判っていた様だからこそ、こうやって書いてきたのでしょうね」
「お母様が…… お姉様の目的を」
「貴女方に何の思いも無いとしても、私のお母様を殺した侯爵を憎んでいることは、あのひとはきっと気付いていたわ」
「お母様が」
「あのひとを貴女はどう思っていて?」
「……え」
「ぼんやりして、侯爵の言いなりになっっている女性だと思っていたのでしょう?」
私は黙る。間違ってはいない。
「お母様はただ…… 私のこともあるし、お父様に従っていたのだと」
「そうねそれもあるでしょう。ただおっとりしているという姿は、結構傍から見たら底に眠った感情の隠れ蓑となることがあるわ。貴婦人の教育を受けたなら、なおのこと、その効果を知っているはず。特にあのひとは、後でその教育を詰め込まれたのだから」
「後だと…… 何が」
「私は子供の頃から侯爵の娘というより、公爵の孫であれ、という教育しか受けていないから、マリア、貴女の様に幾ら美味しいとしても、厨房で使用人と食事をするということはできない。こういう時でもなければね」
「できない、のですか」
「そう、できない」