「あ、マリア様、お目覚めになりましたか」
「イレーナ! 何が一体起こったの!」
私達の棟の方から上がる火の手。
「今は皆避難しております。エリア様もやがてこちらにいらっしゃるでしょう」
「私の質問に答えて!」
離れの庭でたき火をし、その周囲に皆集まっている。
中は中で昼間の毒の件で入るのがためらわれるのか。
そして火。
「……エリアお姉様は、こっちへ来るということだけど…… お母様は? お母様はどうしたの?」
そう、思い出した。
私は確か、お母様と一緒にお茶をしていた時に、急に眠くなったのだ。
あれは。
「イレーナ! お母様は…… あの中に?」
「これを」
一つの厚い封筒をイレーナはエプロンのポケットから取り出す。
「我が娘マリアへ」と綴る文字は、確かにお母様のもの。
「そのうちいらっしゃるエリア様へのもの、やがて助かるだろうシリア様への手紙もイレーナは預かっております」
震える指で開きかける。
だがそこへ、呼ぶ声があった。
「……マリア」
いつも平静な顔のエリアお姉様が、今まで見たことの無い程呆然として私の名を呼んだ。
「お姉様、ご無事で」
「私は無事。だけど、あの火事の中に侯爵が居るわ」
「エリア様、それは」
イレーナが制止しようとする。
私は首を振った。
「何があったんですか、お姉様」
「貴女がこちらに運ばれて行くのを見てからしばらくして、夫人が侯爵を自分の部屋に呼んだと。私の側の者が伝えてきたわ」
「え、それは」
そうそうあることではない。
お父様はお母様を呼びつけることはあってもその逆は。
「エリア様。奥様から手紙を預かっております」
イレーナは再びポケットから厚い手紙を取り出した。
「でも今はまだ、読んでる場合ではないようね」
エリアお姉様は厳しい表情になる。
そして次々に離れへとやってくる使用人達をとりまとめる様に執事に指示する。
「天幕はあって?」
「あ、はい」
本宅の方から持ち出した天幕をその場に次々と張っていく。
「人数があることだし、離れの中にどうこうはできないのでしょう?」
「はい……」
毒のことはエリアお姉様は知っているのだろうか。
いや今はそれは考えるべきことじゃない。
「お姉様、お母様達を助けることはできないのですか?」
「それができるのかどうかは、そちらの使用人に聞いた方が良いのではなくて?」
そしてお姉様はある一人に顔を向ける。
魂が抜けた表情の。
「ばあや!」