毒の特定にはもの凄く困った。
まず、ほんの微量でねずみ等の小動物が瞬時に死んでしまうのである。
「眠る間も無く、というのでは相当強いですね。となると、この瓶の量をもしシリア様が口にされたら、毒消しそのものが効かないかもしれません」
「一滴」ではない。
棒の端にちょっと薄く塗りつけただけのものをねずみの口に突っ込んだだけで駄目なのだ。
「私も様々な毒を見てきましたが、これは初めてです」
「それではどうしようもないの?」
正直、次々に死んでいく小動物の姿に吐き気やめまいがしていた。
「……マリア様、大丈夫ですか?」
「え?」
「ちょっと外に出ましょう」
嫌な予感がしたのか、メルダは毒を置いて、一緒に外に出た。
「気持ち悪いのですね?」
「え、ええ。でも平気よ」
「そういうことではないんです。私も正直、めまいや吐き気が来ています。あの部屋の中での作業は無理です」
「え」
「毒自体が乾いて空気の中に広がってしまう時に、私達がそれを吸ってしまう、それが良くないんです」
「それじゃ、作業そのものがあそこではできないというの?」
「少なくとも、マリア様にはさせられません。何かあったら、私がシリア様に申し訳ができません」
私は言葉を失った。
「ただ、ほんの少し方向が見えてきた感はあります」
「それは」
「気化することで、毒性を全体に広げる薬物というものは無くはないです。ただそれは、通常の毒、というのではなく、それを使って毒ガスを作るためのものではないかと思います」
「毒ガ……ス?」
「何と言ったらいいでしょう」
メルダは眉間を指で押さえる。
「たとえば、花屋で売られている花の葉が、とても綺麗なのは何故だと思いますか?」
「え」
さすがにそれは考えたことがなかった。花屋の花と言えば、家の中で美しく飾られている大きな花のことだろうか、と一応想像してみる。
「だけどマリア様はご存じのはずです。花壇の花には、常に何かしらの虫がついていることを」
「ああ!」
私は薔薇の花の葉が次々に食い荒らされるのを知っている。
果物の木も同様だ。
その草木自体に毒が無い限り、必ずと言っていい程、虫は近寄ってくる。
「アジサイの花の葉がいつも綺麗だったのは」
「そう、あれ自体に毒があるからです。虫はよく知っています。あれが食べられているような場所の場合、周囲の木々が更に毒性が強いということが考えられるくらいです。で、マリア様、そういうものに対してはいつもどうしてました?」
「あ」
思い出した。
「確か、皆口に布を巻いて、空気入れで押して、細かい霧のようにして撒いてたわ」
そしてその時には、私とシリアお姉様は必ず風上に居るように言われていた。
作業をする皆もそうだ。
「そういう類いのものということ?」
「ええ、それの恐ろしく強いものです」