エリアお姉様との話があまりにも濃かったせいだろう。
私はその晩はもんもんとしてなかなかよく寝付けなかった。
ので、寝台の天蓋を眺めながら、ちょっと立場の整理をしてみることにした。
この侯爵家において、シリアお姉様の味方と、そうでないもの。
味方はまず私。
そして離れの人々。
私の森の家の頃の幼なじみのイルド。彼がそうなら、森の家の管理人夫妻もそうだろう。
侯爵家外なら、一番大きな後ろ盾は今回の騒動のおおもととなっているフレスティーナ皇女殿下。
そしてシリアお姉様の恋人だという、司法省のファゴット子爵。
薬問屋の主人も、皇女殿下の配下と考えていいだろう。
これは確実。
かと言って、フレスティーナ様が直接シリアお姉様を無罪だと主張するのも難しいから、絡め手で助けようとしている。
毒をすり替えるのは無理だから、毒消しを何とかお姉様に渡すという方策で。
そして子爵のもとか、市井に移動させるか、ともかく侯爵家とは無縁なところに連れていき、無縁な生活をさせる。
その場合、ファゴット子爵との結婚も考えているのだろう。
筋書きとしては、ここまでが私も希望。
そうしたら、私もこの家から出てもいいかもしれない。
この件が発覚してから、ほんの短い間に、お父様のしていることがどんどん怪しいものだと自覚できた。
そして私自身、正直お父様には情は無い。
そう、情が無いと気付いたこと自体もなかなか新鮮だった。
お父様はお父様だから、それなりに敬意を持って接していたし、言うことを聞いてもいた。
だけど敬意はあったけど好意はあったかと言われると。
小さな頃も記憶にある程に会ったことは無いし、この屋敷に引き取られてからも格別に感情を向けられたことも無い気がする。
お母様にだけは何というかそれなりに可愛がるような雰囲気はあったし、お前はいつも美しいとか誉めてパーティに連れ出してもいたし。
だけど私に対しては、……そう言えば放っておかれた、ってことだな。
マンダリンや使用人達が皆色々と気を遣ってくれたり、お母様は優しいし、先生はちゃんと締めるところは締めてくれたし。
ということは、私にとってお父様って、暮らしのための場所とごはんとお金をくれる人でしかなかったってこと?
ちょっと今さらのように、自分の考え方に愕然とした。
好き嫌いの前に無関心だったの自分!
そう言えばお父様の顔を思い出して描け、とか言われたら私、描ける自信が無いんだけど。
別に可愛がれとは言わないけど、それだけ向こうも私に無関心だったのかなあ、と今さらの様にして思った。
でも、これでシリアお姉様が処罰されて消えたなら、私の扱いはどうなるのたろう。
少なくともお父様はシリアお姉様にとって嬉しくない依頼、というか命令をしていた訳だ。自分の娘であるというのに。
だとしたら、私も何かの形で使われるんでは。
ぞっとした。