私は弾かれた様にエリアお姉様の顔を見た。
「淑女にならなくとも良いと?」
「だって貴女、そもそもなる気が無いでしょう?」
「それはそうなのですが…… どうしてそう思われました?」
「貴女の行動を眺めていれば一目瞭然。
貴女は外で駆け回ったり土いじりをしているのが好きだし、聞こえてくるピアノの音もさして上達する訳でなし。
家庭教師がまあ目をつぶる程度だけど、社交界に出たら潰されるのが関の山くらいだわ。
だったら最初から社交界に出る必要など無いと思う。それだけ」
「出なくても良いのですか?」
「お父様、というか侯爵はまあそのうち失脚するでしょうから、その時にき私がこの家を継ぐわ。
私が決めることと仮定するならば、貴女は貴女の好きな様にすればいい。
シリアもそうだけど、貴女は貴族社会には合わない。
シリアはお父様が社交界には出さなかったし、そもそもが愛人の娘だから、出す必要も無いと双方思っていたのだけど、貴女は違う。
今の夫人の娘だから、確実に来年あたりは出させられる。侯爵がそのままならば」
嫌味で言っているのではなさそうだ。いや、それだけではない。幾つか不穏な言葉が入ってなかったか?
「あの、お姉様、お父様が失脚するとか何とか……」
「そりゃあ今まで毒を使ってあれこれとあっちこっちの有力家におべっか使ってきて今の地位があるのだから。
毒のことで我が家が疑われたなら、もう彼等はお父様に接触しようとはして来ない。
領地の方を置き去りにしてそんなことばかりしているからこんなことになるのよ」
あくまで淡々と話すエリアお姉様に私は背筋が寒くなった。
「それで…… お父様が失脚すると?」
「私のお母様の実家は、確かに金でお母様を売った様なところがあるけれど、お母様の兄弟姉妹はそうでもないのよ。
そして彼等はそれなりの名家を立てたり、そこの伴侶となっている。
早死にしたきょうだいが居たなら、原因を内密に調査してもおかしくはないでしょうね」
「……あの、もしかして」
「何?」
「先の奥様は……」
すっ、とエリアお姉様は私の前で手をかざした。
「領地経営の方は、今は私が時々見回っているの。
侯爵は本当にその辺りがいい加減だわ。
あのひとはおそらく領地というか農業や産業やそういうことが嫌いなんでしょうね。
だけどこの家の領地は、場所も地質もとても良い。まだまだ可能性はある」
「後ろ盾というのは」
「色々と経営の方法を教わってはいるのよ。
馬鹿な侯爵。
きちんとやっていれば、危ない橋など渡る必要が無いのに」
ぞく、とうすら寒くなってきた。
今まで話をしようとしなかったのは、間違いだったのか、それともそうではなかったのか。
その時の私には判らなくなっていた。