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第30話 のこり5日4 窓の向こうの人のことを考える

 そうです、とメルダはうなづいた。


「名前を変えて隠れている方も居るはずです。国外に出てしまったなら何ですが…… そういう中で心ある方なら、シリア様の救出に手を貸していただけるでしょう」

「判った。すぐに戻って過去の記録から照会してみよう。そして何よりも、毒の特定だな」


 私達は揃ってうなづいた。



「お嬢様」

「……」

「マリアお嬢様!」

「え?」

「黙り込んでおしまいになって! 今夜のお食事ですがどうなさいますか? お部屋で? それとも厨房でなさいますか?」

「……」


 私は少し考えた。

 空は青いし鳥の鳴き声は美しい。

 そしてちらと目だけで本宅の窓を見ると、やはり誰かしらの姿がある。


「お母様か、エリアお姉様、どちらかと二人で食事が摂れないものかしら」

「え? そりゃ、まあ、奥様ならお断りすることはまず無いとは思いますが…… エリア様は如何でしょう。あちらの棟の係と話をつけてみないと」

「そこなのよね」


 ふう、と私はため息をついた。そしてつ、と顔を上げた。

 窓の側に居る人物の方をあからさまに向く。


「私、エリアお姉様ときっちり話したことが無いのよね」

「それはまあ、向こうの方がお望みにならなかったことですし……」

「でも、この先どうするとかどうなるとかの話は、しておかなくてはならない気はするのよね」

「マリアお嬢様」


 イレーナは足を止めた。


「まだそれは早いと思います。シリア様をお助けになりたいということは、ひいては旦那様を」


 そこでイレーナは言葉を切った。

 言いたいことは判っている。

 要するに自分達がやっていることは、お父様を、侯爵を切り捨てることなのだ。


「マリアお嬢様は既にお覚悟ができていらっしゃるし、私もお小さい頃からの仲です、何があっても付いていきます。ですが、奥様とエリアお嬢様は果たして」

「そうよね」


 ふう、とため息をつく。


「ただ、お母様であれお姉様であれ、お父様に対する気持ちを知っておきたいと思ったのよね」


 正直、エリアお姉様がお父様を好いているとは思えない。

 と言うか、見下してはいるかもしれない。

 だけどそれはシリアお姉様に関しても同じで。

 いや、身分であれ、前夫人に恥をかかせた女の娘ということで、憎んでいてもおかしくはない。

 ただそれは推測に過ぎない。


「いずれにせよ私達、ファゴット子爵が突き止めてくれるまで、わずかだけど時間があるのよ。できることはしたいわ」


 わかりました、とイレーナは言った。

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