そうです、とメルダはうなづいた。
「名前を変えて隠れている方も居るはずです。国外に出てしまったなら何ですが…… そういう中で心ある方なら、シリア様の救出に手を貸していただけるでしょう」
「判った。すぐに戻って過去の記録から照会してみよう。そして何よりも、毒の特定だな」
私達は揃ってうなづいた。
*
「お嬢様」
「……」
「マリアお嬢様!」
「え?」
「黙り込んでおしまいになって! 今夜のお食事ですがどうなさいますか? お部屋で? それとも厨房でなさいますか?」
「……」
私は少し考えた。
空は青いし鳥の鳴き声は美しい。
そしてちらと目だけで本宅の窓を見ると、やはり誰かしらの姿がある。
「お母様か、エリアお姉様、どちらかと二人で食事が摂れないものかしら」
「え? そりゃ、まあ、奥様ならお断りすることはまず無いとは思いますが…… エリア様は如何でしょう。あちらの棟の係と話をつけてみないと」
「そこなのよね」
ふう、と私はため息をついた。そしてつ、と顔を上げた。
窓の側に居る人物の方をあからさまに向く。
「私、エリアお姉様ときっちり話したことが無いのよね」
「それはまあ、向こうの方がお望みにならなかったことですし……」
「でも、この先どうするとかどうなるとかの話は、しておかなくてはならない気はするのよね」
「マリアお嬢様」
イレーナは足を止めた。
「まだそれは早いと思います。シリア様をお助けになりたいということは、ひいては旦那様を」
そこでイレーナは言葉を切った。
言いたいことは判っている。
要するに自分達がやっていることは、お父様を、侯爵を切り捨てることなのだ。
「マリアお嬢様は既にお覚悟ができていらっしゃるし、私もお小さい頃からの仲です、何があっても付いていきます。ですが、奥様とエリアお嬢様は果たして」
「そうよね」
ふう、とため息をつく。
「ただ、お母様であれお姉様であれ、お父様に対する気持ちを知っておきたいと思ったのよね」
正直、エリアお姉様がお父様を好いているとは思えない。
と言うか、見下してはいるかもしれない。
だけどそれはシリアお姉様に関しても同じで。
いや、身分であれ、前夫人に恥をかかせた女の娘ということで、憎んでいてもおかしくはない。
ただそれは推測に過ぎない。
「いずれにせよ私達、ファゴット子爵が突き止めてくれるまで、わずかだけど時間があるのよ。できることはしたいわ」
わかりました、とイレーナは言った。