その話に関しては、途中までしかファゴット子爵には明かしていないということ。
彼は裁く側の人間でもあるので、下手にそこで漏れてもいけない。
なので皇女殿下が「助けたいので手を貸す、後のことは指示を待って」ということだったそうで。
そんな訳で私がその辺りを伝えるべく子爵とやはり捜索の名目で、離れにやってきてもらったという。
だが何やら離れが騒がしい。
「どうしたの?」
「ああお嬢様、奥様が林の木を薪にするように、ということなんですが」
「それは判っているけど、……それも持っていくの?」
荷車には沢山の、前からあったらしい枯れ木が乗せられていた。
「まああるものは持ってこいということですから」
「離れのほうはまだ多少捜査があるから閉鎖はちょっと待ってもらわないといけない、とお母様には言わなくちゃね……」
「その辺りは自分が。それにしても何でまた薪を?」
「さあ? 正直判らないんですけど…… お母様にしては珍しい……」
そう、お母様がここまでさせるのぱ殆ど初めてではないか、と思う。
普段は夫の言うことを聞いて、格別口出しもせず、飄々と夫人業と私の母親をやってきただけなのだと思ったのだけど。
だけど季節が季節だっただけに、私はこの時はこの件についてはそこで関心が失せてしまった。
ともかくは子爵と共に次の算段なのだ。
*
「ファゴット様、毒による処刑の手順というのを説明していただけるとありがたいのですが」
私達は離れの例の部屋に入って話し合っていた。いつ見ても凄い引き出しだ、と彼は感心している。
「お預け処がどこになっているか、ご存じですよね」
それに関してはフレスティーナ様も知らなかった。
「ええ。内々の処刑ということで、そこから程近い牢獄に移動して処されるとのことです」
「毒のほうはいつの時点で用意されるのでしょうか」
そこは重要だった。
「直前ですね」
「直前……」
「仮死にする薬と入れ替えるという方法も考えたのですが、少々それは難しいのですよ」
「やっぱり考えていらしたのですね」
無論、と彼はうなづいた。
「では、毒消しを何処かでお姉様に渡す方法は無いでしょうか」
「毒消し、ですか」
ちらり、と私はこの部屋に並ぶ引き出しを見た。
「強い薬を作る際には、毒になり得る場合もあるので、同時に毒消しも作っておくと聞いたことがあります」
これはマンダリンが言ったことだった。実際、この離れには毒消しが存在している。
あれこれ毒性の強い植物を菜園で作っている以上、それは必要なものだった。
「なるほど…… 毒消しですか」
さすがにそれは子爵も思い当たらなかったらしい。
「ですので、どんな毒を使うのかが判れば」
「作るのですか?」
私はうなづいた。