さてこれは後で聞いた話だ。
私が「離れで過ごしている」ということになっている間、お母様とエリアお姉様はそれぞれお父様の様子を観察していたのだという。
「旦那様、どうか、シリア様をお助けください」
お母様はお父様の部屋に出向いてにそう言ったらしい。
するとお父様はあきれた様な口調で。
「何を今さら。あれが大罪を犯したことは明白。今さら何ができるというんだ」
「しかし、貴方様の娘の一人なのですよ? そしてこの先、どうなるかおわかりなのではないですか」
「娘と言ってもあれは旅芸人の血だ。使えるからこそここで養っていたに過ぎない」
「使える」
その言葉にお母様は反応したそうだ。
そして「判りました」と一言告げ、部屋を出て行った。
「無駄ではありませんでしたか?」
部屋を出ると、エリアお姉様がいらしたそうで。
「ええ、無駄でした」
「そうでしょうとも」
エリアお姉様の冷ややかな声が、聞いていた者の耳には恐ろしかったらしい。
その恐ろしい声が続けた。
「ところで義母上は、これからどうなさいますか?」
「これから、とは」
「父上は血の繋がった娘を見捨てる方ですよ。私はそれでも亡くなった母の実家が質素とはいえありますし、公爵家という形は保っております。伝統もあります。ですが義母上、貴女とマリアはこのまま大丈夫でしょうか?」
「……ああ、マリア!」
こちらへ、とエリアお姉様は自分の棟へとお母様を引き入れたという。
*
やがて出てきた時、お母様の顔色は酷く悪かったそうだ。
だが、表情は今までになく引き締まったものだったと。
その後、お母様は離れの片付けのことについて、使用人を集めた。
「しかし奥様は一体何だって、林の木々を薪にしたら種類別にしておけ、などとおっしゃるんだろう」
「いや、水気の多いものは別にしておけ、ということじゃないか?」
「あと、前からあるカラカラになった枝は集めて裏にまとめて置いておけ、なんて言われても」
「ちょっと訳判らないよなあ」
庭師達は、そう言いながら離れへと向かったそうだ。
すると、やたらとカラカラになった枝が、無造作に集められている場所があったらしい。
「おーい、こっちの庭師はいるかい」
呼んだが誰も出てこない。
この時庭師をやっている者は、皆私やイレーナを連れて街へ出ていたのだ。
「お嬢様もいらっしゃらねえ。どうしたんだ?」
「まあいいさ。カラカラになったもんだろ? あれを運んでおけばいいんじゃねえか?」
指さす先には、白っぽい表皮の枝がこんもりと積まれていた。
「大量だな。しかも結構な年数放ってねえか?」
「おー、あっちに薪置き場は別にありそうだぜ」
「とりあえずこれを向こうに運ぼうや。奥様のご命令だ。こっちの連中には後で説明すればいいだろ」
そう言って、本邸の庭師達はその枝を大小太細構わず荷車に乗せ、本邸の裏の一画へと運んでいったとのことだった。
運ぶ最中、そこから枯れても形をしっかり残した細長い葉がこぼれてもいたのですが、彼等はそれに気付いてはいなかったと。
あくまで後で聞いた話だけど。