フレスティーナ様はとりあえず、と私に席をすすめた。
やがてメルダが勝手知ったるがばかりにお茶を入れてくる。お菓子も添えて。
「貴女には一度会いたかったのよ」
「私に、ですか」
「ええ」
テーブルの上で腕を組んで、ぐい、とこちらに視線を向けてこられる。
思わず膝が震えてしまう。
何せ噂や絵姿でしか見たことのない方た。
その時には美しい銀色の髪も豪奢に結われている。今とは大違いだ。
それでも向き合うと、こざっぱりとした姿でも何やら格の違いを感じるというか。
「さて、単刀直入に言うわ。貴女、シリアが今回捕まったことをどう思う?」
これは素直に思ったことを言わなくちゃならない。
「おかしいと思います」
「何で?」
「シリア姉様は、皇女殿下をわざわざどうこうしなくちゃならない理由がないからです。お姉様は社交界とも無縁で」
「そうなのよ。簡単な話だわ。私と街で知り合っていること、友達であることは限られた者しか知らない。そもそもシリアの存在を知ってる者が、宮中やら社交界やらでは少ない。ただ、私の口にするものに毒が盛られていたことは確か」
「だからって」
「そう、だからって彼女ではない。だったら簡単なことよ。私に毒を盛りたい者がいたことは確か。ただそれはシリアではない。だけどシリアの調合できる毒であったことも確かなのよ」
「お姉様の調合できる毒?」
ぐい、とフレスティーナ様の綺麗な顔が迫ってくる。
「貴女は知らないと思うけど、ここ二、三年、社交界、宮中、そういうところのあちこちで毒殺される者が出ているのよ」
「そうなんですか?」
「ええ。貴女はまだ社交界に出ていないからそういう情報が耳に入ってこなかったと思うけど」
「いえ」
私は軽く視線をテーブルの菓子の方に落とした。
「確かに葬式が多いな、とは思ってました。両親が何度もそのために外出してましたから。その、二、三年の間に」
なるほど、と満足そうに彼女は目をやや細めた。
「司法省の調べでは、何かしらの常用している薬の摂りすぎと出ている場合もあるのだけど、その中で薬とは無関係で、しかも同じ症状を起こしている毒が存在している、ということまでは掴んでいたのよ。その上で、私にもそれが仕掛けられたというわけ」
「あ、あの……」
「何?」
「殿下は、それで、大丈夫だったのでしょうか? お体は……」
「未遂よ。私にも多少は知識はある。おかしいと思ったから調べさせたら、このところ疑問視されていた毒と同じだった。……で、大事にしてみたというわけ」
大事に「してみた」?
多少私はそこにひっかかった。
「もしかして、殿下はお姉様ではない本当の犯人にお気づき…… ご存じなのですか?」
ええ、と彼女は見事な笑顔を見せた。