幼なじみは疑問をぽんと私に投げると、明日離れに来て、と言って去っていった。
久しぶりだというのに嵐のようだ。
ああもう、色々ありすぎだ。
私はその晩はそれからすぐにベッドに入ったけど、色々と訳のわからない夢にうなされた。
夢の中ではマンダリンが大鍋で何やらかき回し、煮出していた。
布で鼻と口を覆い、目にはガラス箱のようなものを取り付けて。
近寄っちゃ駄目よ、と私とシリア姉様に言っていた。
近寄ったらどうなるの、と私は遠くから大声で問いかけていた。
彼女は黙って大きく腕を広げていた。
他にも色々断片的に妙に色鮮やかな夢を見ていたんだと思うけど、うまく思い出せない。
ただ夢の中のマンダリンが妙に鮮やかに思い出せることで、私は何となく今でも彼女を懐かしく思ってるんだなあ、会いたいんだなあ、と思った。
起き出すと、いつもより髪がしっちゃかめっちゃかになっていた。
「おはようございますー! ああらまだそんな格好で!」
「おはようイレーナ…… ううううううう眠いよぅまだ……」
「そんなことおっしゃって。今日はまた離れに呼び出されてるって言ってませんでした?」
あれ? 言ったっけ? はて。言ったかもしれない。
「イレーナも一緒に来るんだっけ?」
「私も行かないと怒られますよ」
*
そんな訳で朝食を部屋で摂った後、イレーナと離れに向かった。
「遅いぞー」
そう言ってイルドが手を振っていた。そしてその周囲には、離れの使用人達。
「おはようございますマリア様」
メルダがいつもとは違う服―― 使用人のお仕着せではない、私服でそこにいた。
「さ」
メルダは離れの中へと私をうながした。イレーナがさあさあ、と離れの中へと私を押し込んだ。
「ちょ、ちょっと」
「お話はついてます。ここはお急ぎで」
そう言いつつ、二人は手際よく姉様のクロゼットを開けると、見たことの無い服を取り出した。
「マリア様は少しシリア様よりお小さいから」
「そうですね、少し前のものが」
え、何の話?
身体に服を当てられて、この辺りですね、とかうなづきあっている二人に唖然としつつ、私はいつの間にか着替えさせられていた。
「髪もふわふわさせたままではいけませんね」
そう言って二つに分けた三つ編みらさせられ、なおかつそれを耳の横で巻き巻きにされた。
「リボンとかないですか?」
「シリアお嬢様はリボンというよりは止め紐の方でしたから……」
それでもその中で太いものを見つけ出しては可愛くまとめてくれるあたり、私のイレーナは優秀だと思う。
しかしやっぱりここで言ってやりたい。
「ねえ一生懸命なのは判るんだけど、一体私はこれからどうしろって言うの?」
何となく予想がつかないではないが。
するとメルダが言った。
「街へ出ます。今日はマリア様にお会いになってもらいたい方がいらっしゃるのです」
まあそんなことだと思った。