「どうしたの一体」
私は大急ぎで窓を開けた。彼はするりと中に入り込んだ。こんなところ見られたら大変なはずなのだけど。
「大丈夫、離れの方から入れてもらった」
「離れの人達と知り合いなの」
彼はうなづいた。
イルドは私が森の家に住んでいた時の使用人の息子だ。そして幼なじみだ。
昔は本当に彼とほとんど一日を一緒に過ごしていた。
「……それにしてもにょきにょき背ばっかり伸びて」
私を見下ろす程に背は高く。
明るい茶色の巻き毛、金色の目は昔以上にきらきらしてる。
やや痩せぎすの感じもするけど。
「そっちもずいぶんお嬢様らしくなったじゃん」
「どうだか」
私はやや口をゆがめる。
「どうしたの、本当に。ずっと音沙汰なかったのに。私があんたを覚えていないとか思っていなかったの?」
「俺はマリアを遠くから見てたよ。こっそりだけど。親父やお袋が心配していたし。奥様もいきなりあんなでかい家で大変だから様子を見てこい、って。人使いが荒いんだから」
「らしいわね」
彼の襟元を掴みながら、私はくっくっく、と笑う。
「でも直接会いに来た理由があるんでしょ?」
「シリアさんが捕まったって聞いたから」
「姉様を知ってたの?」
「こっち側になかなか入れなかった時に、離れの方から入れてくれた。それ以来。というか、こっそり入ろうとしたら茂みですっ転んであちこちにすり傷作ったら手当てしてくれて。そん時マリアの幼なじみだ、ってて言ったらこころよく。自由に来てもいいよ、と言われていたから」
「そう」
だったらもっとちょいちょい私のところに顔を出せば良いのに、と思う。
と言うか私の様子を見に来てたはずなのに何で私に会わないんだ。一体何年ぶりなのか。
「それで。姉様の一大事にすっ飛んできたって訳?」
「それもあるけど、まずマリアが大丈夫かなと思って。だってシリアさんと仲が良かったんだろ?」
さすがにそう言われると、目頭がぐっと熱くなる。こらえていた感情が押し出されてきそうだ。
「大丈夫なんかじゃないわよ! 何だって姉様が捕まらなくちゃならないの、一週間後に処刑ってどうなのよ! 姉様がそんなことできるひとじゃないってことくらい!」
幼なじみとばかりに、今まで話してきた皆の誰にも出さない様な口調になる。
ただし大声は出さない。
さすがに男連れ込んだとか言われたら大変だ。
「それはどうかなあ」
ええ? と私は彼の襟首をひっつかんだ。
「苦しいってば」
「いいから続き」
「うん。シリアさん自体はそういうことできるひとじゃない、と俺も思うよ」
「でしょ?」
「だけど、シリアさんが作ったものか使われるということはあるんじゃない?」
「薬が?」
「うん」
「どうやって?」
「シリアさん街の貧しいひと達に配ったりしていたろ? でもそれだけだとお遊びだよね。それに、そういうことしていてこの家は構わないの? 薬を作るにも金が要るんだろ? その金はどこから出たの?」