「エリアお嬢様のは短かったですよ」
まず一人がそう言い出した。
「旦那様の三分の一、奥様の半分くらいでお済みになりました。まあ実際、エリアお嬢様はシリアお嬢様のことは目に入っていないというか、目に入れたくないという感じですからねえ。何か聞かれたとしても知らないの一点ばりでしょうね」
おっと失礼、という感じで向こうの棟の掃除を担当している一人が言う。
私は野菜の煮込みをぱくつきながら訊ねた。
「お父様が一番長かったのよね」
「そうですね。まあそれは当然でしょう。ですから、案外奥様が長かったのが私などは不思議だったのですが」
それは私とお母様の棟を担当している一人の感想だった。
「お母様は大丈夫かしら」
「ずいぶんとお疲れのご様子でしたね」
お代わりは如何ですか、と私のほとんど空になったスープ椀を見て言う。
「そう言えば、お母様は向こうの離れを閉鎖して欲しいって言ってたってことだけど」
「あ、はい」
庭番の一人が返事をした。
「向こうの庭番と協力して、林の木々をできるだけ沢山薪にするようにと言われましたが。……この冬が寒いというお知らせでも来てましたか?」
「いいえ? 私もそんなこと聞いてないけど」
そう、そこが気になっていた。
「薪があるのはいいんですがね、向こうの連中とは一緒に働いたことがないんでちょっと困りましたよ」
「じゃあその辺りは、向こうに任せた方がいいんじゃないかしら?」
「お嬢様はそうお思いで?」
ええ、と私は大きくうなづいた。
「何だったら私がそう話をつけるし」
「だったらありがたいでさ。いや、別に向こうの連中が苦手とかそういうんじゃないんすがね、向こうの木とか花とかってのは、どうもワシ等の見たことのないものばかりでしてね」
「まあねえ……」
そりゃまあ、ただ綺麗に咲かせればいいのがこちらの庭師の役目だとしたら、離れのは薬やら何やらの材料にもなるものなのだから。
それ相応の知識がないと、時には危険なこともある。
「薪が必要なのでしょ? たくさん。だったらそういう話をしておくわ」
「ありがとうございます」
庭番はびょい、と頭を下げた。
「はー。奥様はやっぱり離れがお嫌いだったんですかねえ」
「どうかしら」
「マリアお嬢様にこう言っては何ですが、奥様はシリアお嬢様に対してはともかく、向こうの方が生きてた時には嫌な顔をなさってましたよ」
「マンダリンのことが嫌いだった?」
「前の奥様は無視なさってましたがね」
古参の一人がつぶやく。
「無視?」
「前の奥様はそれこそ旦那様のことすらどうでもいい、という顔なさってましたから。本心は私ゃ知りませんがね。マンダリン様のことは、もっとどうでも良かったんではないですかねえ」
「興味がない、と」
「少なくとも、高貴な方としては興味がないお顔をなさっていなくてはならなかったのではないでしょうかねえ。それに比べれば、今の奥様は正直ですよ」
これこれ、とあからさますぎるとばかりにその発言をした一人は横から同僚に肘打ちをくらっていた。