私達が離れから戻ってきた頃には、皆の取り調べも終わっていた。
不安気な顔で使用人たちも寄せられ、立ちすくんでいる。
そして、今後の司法省の方針が伝えられた。
どうやらシリア姉様は1週間後に刑に処されるとのこと。
この国の昔からの法により、刃物には刃物を拳には拳を、そして毒には毒というのが処刑のあり方である。
庶民の場合は見せしめの意味が必要な場合には公開刑だが、今回は秘密裡にとのことである。
シリア姉様が社交界に出ていなかったのもよかったかもしれない。見せしめにする意味が弱いのだ。
家族にはお咎めはないと言う。
だがそれが必ず、なのかは説明は無かった。
ともかく一週間しかない。
私の頭の中はそのことでいっぱいになっていた。
*
後でイレーナは私にこう言ってきた。
「他のご家族の方にお咎めがないと言うことで、使用人の皆も大変安心してました。離れの方々は分かりませんけれど」
イレーナは子爵との離れ行についてきていない。
その間、他の主要人の様子について聞いておくようにこそっと言っておいた。
「奥様付きの方によると、ひどく憔悴なさっていたそうです」
「それは、でも、お母様には何も起こらないじゃないの?」
「そこまでは分かりません。ですがばあやさんは、奥様の憔悴ぶりを心配してました。夕飯も全く手をつけなかったようで」
お母様がそこまで心配するのだろうか。
ふと私は気になった。
確かにこの家がどうなるか判らないというのは、侯爵夫人としてのお母様の一大事なのだけど。
「ところでお嬢様」
イレーナは思い出したようにこちらを向いた。
「奥様は、離れの方を閉鎖するように旦那様にお願いしたと言うことです」
「なんですって」
思わず、私は声を荒らげていた。
「旦那様は渋っていましたけど、奥様がこればかりはとばかりにお願いしたようです。旦那様もシリアお嬢様が捕まってしまう以上、奥様の言い分も仕方ないとお思いになったそうです」
「いつ閉めるって言っていた?」
「そこまでは」
そう言って、イレーナは首を傾けた。
お母様がそこまで離れのことを気にしていたとは。初耳だ。
今まで、離れの事など興味がなかったように私には思えたのに。
むしろ、エリアお姉さまの方が離れの事は嫌いだったように思えるのだけど。
あの視線は、エリアお姉さまのものだけではなかったのかもしれない。
「特に、林の木々を切ってしまって欲しいとの事でした。薪にして欲しいとのことです」
さらによくわからない。
確かにこれから冬も近づいてくるし、早めに薪の用意をとのこともあるだろうけど。
けど離れが閉ざされるなら、あの部屋のものを。薬草を。
いや、それだけじゃない。
必要なものを作らなくてはならないのだ。