外で。
街で子爵はシリア姉様と出会ったと言うのか。
確かに、この離れで出会うよりはありそうなことだ。
「一体何処で」
「本屋です」
ありえそうな…ことだ。
「本屋で毒のことを詳しく書いた本を探していたんですよ」
子爵はそう言った。
「なぜそんな本を?」
「職務上必要になりまして。図書館やそれまでの資料を見てもわからない部分がありました。異国の文献で詳しいものがあればいいかとやや苦し紛れに本屋へ出かけたのですが、そこで彼女が『こちらが詳しいですよと』」
「シリア姉様らしいですわ」
「それでよく話すようになったんですよ。彼女は知識が豊富で、それでいて自分の知識を鼻にかけることもない。外見も目立たない様に気をつけていました。実際、ずいぶん私は教えられることが多かったです。だが、話せば話すほど、なぜ侯爵令嬢がそんなことに詳しいのか不思議には思ったんですよ」
それは当然だ。
実際私だって、シリア姉様やマンダリンのことを知らなければ、そんなことを令嬢がよく知ってるなど考え付きもしない。
しかしよく考えてみればなぜそんなことをマンダリンになりお姉さまが知っていなくてはならないのか。
不思議ではある。
「ところで職務上の必要と言うのはどういうことですか」
私は子爵に訊ねた。
「毒を使った事件が多いと言うことですか?」
「ご明察」
子爵は苦笑した。
「宮中、社交界、そういったあたりで、
毎年いくつかの毒殺事件が起きているのです。ですがその毒の特定がうまくできません。知識が我々には圧倒的に足りないのです」
「それで資料を探しに出たと言うことですか?」
「異国の毒であれば可能性は高いです。そしてそれを使える人物として残念ながらシリア嬢は捜査線上に出てしまいました」
「でも皇女殿下の件はどうなのでしょう。子爵様はお姉さまと殿下の関わりをご存知なのではありませんか。知らないはずはないと思うのですが」
かまをかけてみた。
「では少し独り言を言います。皇女殿下は案外市井に出向いておられました。お忍びで」
「お忍びで?」
「皇女殿下は御公務の一つとして、救貧院の整備を考えておられます。そしてそのための人材を探しておられたとのこと。そんな折にシリア嬢が貧しい人のために手当てや薬を分け与えていたことを知り、知り合っていたようです」
「皇女殿下はお姉様のことを知っていらした?」
「おそらく街中でシリア上のことを侯爵令嬢と気付くことができたのは皇女殿下だけでしょう。皇室の方々はシリア嬢が侯爵令嬢と言うことを知っています。他の貴族たちはおそらく彼女を見てもそうは思えなかったでしょう。ですがお披露目はなくとも最初の謁見はありました。ですから皇室の方々だけは彼女の正体を知っていました。皇女殿下は彼女を自分の仕事の中に引き込みたいと思っておられました」
「独り言ですね」
「はい、独り言です」
子爵は目を伏せた。
「つまり、子爵はお姉さまが皇女殿下を毒殺しようなどと思うわけがないと考えておられるのですね」
私はさらに続けた。
「子爵はお姉さまを助けたいと思っているのですね」