そう、そこ。
シリア姉様は、お父様に頼まれて薬や何かしらを作っていた。
まあそれはわかる。
マンダリンもそれが自分の仕事であるようなことも言っていたことがある。
だが、小さい頃は聞き流していたそれは、マンダリンが死んで、シリア姉様と会う時間が減るようになってから、だんだん疑問に思うようになっていた。
メルダは淡々と続ける。
「本館の方にお出ましになるのは、その作業の内容を旦那様からお聞きするためです」
「すると君は、今回の毒は、侯爵が依頼したものだというのか?」
子爵は訊ねる。
「私にはそれ以上のことは申し上げられません。お嬢様についてそちらへ伺う時にも、旦那様の部屋の前では扉を閉ざされてしまいます」
「だけど作っているものは判るのかい?」
「それも私には。私はお嬢様のおっしゃる手順の中で正確な手助けをするだけで、それ以上のことは判りません」
「教えなかったの?」
「はい、マリア様。お嬢様は私達には本当に手伝いしかさせませんでした」
私は思わず顔の前で組んだ手を軽くもぞもぞとこすり合わせた。
嘘ではないだろう。
嘘だったら、もっとちゃんと彼女達はシリア姉様をかばう内容を口にするはずだ。
だが旅芸人出身の彼等は教養はともかく、馬鹿ではない。
奔放な様な見えても、言葉を慎重に選んでいる。
「ではもう一つ聞きたいのだけど」
子爵もまた、この召使いは率直に事実だけを述べようとしていると感じたようだ。
「一体シリア嬢は、いつ何処で第一皇女殿下に出会ったのかな?」
そう、それが私もとても不思議だった。
社交界に出ていない、出させられないお姉様が、どうしてその社交界の華である第一皇女殿下フレスティーナ様に毒を盛ることができるのか。
私は根本的におかしいとずっと思っている。
「メルダ、私も聞きたいの。お姉様は普段どんな方々と交流があったの?」
「どんな、とおっしゃいますと」
「あなたさっき、お姉様自身で材料を買い求めに行ったと言ったじゃない。私はお父様の許可無しにお母様と買い物に行くということもできないのだけど、お姉様はこの林を越えて、自分達で外に出ていたのでしょう?」
はい、とメルダはうなづいた。
そして彼女は語り出した。
「はい、シリアお嬢様は週に一、二回、外の店に何かと必要なものを買い求めにいらしてました。
マリア様のご想像通りでございます。
私だけでなく、私どもの誰彼が付いて、街まで馬車を出しておりました。
あれです。あの大きな幌のついた、荷馬車です。
こちらの食料の買い出しに取り紛れ、街では薬に必要なものを買い込むのは私達にとって日常でした。
私達と同じ様な格好をしていれば、まずお嬢様は侯爵令嬢の一人とは思われません。
材料によっては許可が必要なものもありましたが、侯爵家の紋付きの依頼書があれば得体の知れない若い女性であっても可能でしょう。
先の奥様の時から引き継いでいる場所でしたら、その付き合いもございます。
時には薬を貧しい人の元へ届けに行ったりもしていました」
「……そうだったな」
私は子爵のつぶやきにぱっと彼の方を向いた。
「そこで私も彼女と知り合ったのだ」