その点は気になっていた。
だけどイレーナにはその疑問については訊ねなかった。
彼女が他の使用人から聞いたように、彼女がまた私の疑問をぽろっとこぼす可能性もあったからだ。
だが「それだけじゃない」。
だとしたら、何かしらの先の奥様の死因に疑問を持たせる何かがあったということだろう。
*
「ここが離れになります。この館の中に、シリアお姉様と、使用人達が暮らしています」
私は離れの館の使用人達を呼んだ。
まだここまで取り調べをする子爵の部下は来なかったらしい。それとも。
「中をご案内します」
多くはない使用人の中から、シリア姉様の一番近く――私にとってのイレーナに当たる、メルダがそう言った。
「何処から参りましょうか」
「作業場を」
子爵は彼女に向かってそう言った。
「かしこまりました」
焦げ茶色の髪と目を持つ彼女は姉様より少し上。やはり使用人の一人と結婚して一緒に仕えている。
「マリア様もご一緒で」
「そうだ」
「判りました」
素っ気ない口調。
彼女にしろ彼女の夫にしろ、ここの使用人は基本的に口数は少ない。そして結束が固い。
特にマンダリンが亡くなってからその傾向が強くなった。
残されたシリア姉様を守らなくては、という意識が強いのだろう。
「作業場には君も出入りするのか?」
「はい。私はお嬢様の最も側で手伝うことが仕事ですので」
「薬の精製も?」
「必要とあれば」
先に立って歩きながら、メルダは振り返りもせずにそう言う。
作業場の扉を開けると、そこは暗かった。
少々お待ちください、と言いながらメルダは灯りを点けた。部屋中がひんやりとしている。
壁は名前を書いた紙を貼り付けた小さな引き出しのついた、背丈よりやや高い棚で埋めつくされている。
「ここにあるのは全て薬の元なのか?」
「はい」
「中には毒になるものもあるのか?」
「薬というのは、基本的には毒です」
メリダはくるりと私達の方に向き直ると告げた。
「よく効く薬も量を間違えれば毒となり得ます」
淡々と告げる彼女の太めの眉はぴくりとも動かない。
「材料は何処で仕入れているのだ?」
「薬草でまかなえるものはここの庭で栽培しております。無理なものは街まで買い出しに行きます」
「街まで」
それは私も初耳だった。
「シリア様が直接買い求めにいらっしゃいます。私はそれについて行きます」
「例えば?」
「鉱物由来のもの。精製された塩、舶来の香辛料はここではどうにもなりませんので」
「それはどういう時に使うのだ?」
「必要な時に」
「では必要な時とは、どういう時なのだ?」
淡々と答えてきたメルダの答えが少しだけたゆたった。
「旦那様に依頼されたものを作る時です」