寝耳に水だった。
だがしかし仕方が無い。
シリア姉様とは、やはりそれなりに一緒に居る時間が歳ごとに減ってはきていたのだ。
本宅に来ることがあると言って、当初は喜んだ。
けど来たと言っても、お父様の用事がほとんどだった。
それが終われば揃ってお茶。
その決まったコースの中で、私の部屋で談笑するという時間はどうしても限られる。
私も学ばなくてはならないことが増えて、家庭教師の数まで増えてしまった。
音楽教師などはエリア姉様と同じひとが来るのだが、筋がいいと褒めてくれるのは嬉しい。
一方、詩を作るとか美麗な手紙文を作るということに関しては、私は別の先生についていたのだが、まあこの先生はよく頭を抱えている。
「お嬢様の字はとても綺麗なのですが、何でこんなに無味乾燥な内容なんですか……」
「すみません先生、花の名前を覚えるとか計算とかはわかりやすいんですが」
「だったら花の名前を上手く使ってください! それぞれに花言葉とか色々あるんですから!」
と切れられたこともあるくらいだ。
なるほど、とそれに関する本を貸してもらって、頭に叩き込んでおきはした。
だがどうも花とか何とやらは離れでの習慣で、何に使えるか、というのが最初に来る。私からしてみたら、香りのしない豪奢な花よりは可愛くて葉の香りの強いミントの方がいい。
手仕事はまあまあだった。
ただやはりこう言われる。
「お嬢様のは…… 何というか…… もの凄くしっかりできているんですが…… 色合いとか……」
裁縫の先生は苦笑していた。
この時は確か、香り袋を作っていた。衣服に忍ばせて、香水よりふんわりと爽やかな香りがするということから、女性から男性への贈り物の定番なのだという。
「本当にこの縫い目の揃い方といい、端の始末といい、非常によく出来ているのですが……」
刺繍の目一つ一つも綺麗にできている。だが図案が壊滅的に、と。
普段だったら流してしまうのだけど、どうもその辺りはむっとした。
「いいですよー、私刺繍で生きてく訳ではないですから」
「そんなお嬢様、何かと良い殿方を射止める時には有効な手段なのですよ」
「……だったら、図案だけ誰かに考えてもらうわ」
先生にはため息をつかれた。
「普通のお嬢様というものは逆なんですがねえ……」
「どういうこと?」
「図案だけ作って、刺繍は小間使いにやらせればいいんですよ。一応お教えはいたしますが。ですがお嬢様は既に裁縫はどなたかに教わっていらしたのですね。奥様ですか?」
「まあそんなところよ」
無論お母様ではない。教えてくれたのはマンダリンや、離れの召使いだ。
その離れにも行く時間が年々減ってきていた。
かと言って私が、時間が空いたから夜、離れに行くというのも。自宅とはいえ、夜の暗い庭を歩くのはなかなかに怖いものがあった。
それにやはり、どうも外でシリア姉様と一緒に歩いていたりすると、窓越しの視線を感じるのだ。