「なるほど、なかなかそれぞれの生活に差があったのですね」
ファゴット子爵は部下に筆記させながら、ただただ私の話を聞いていた。
「ええ。我が家の力関係は、お父様を筆頭として、次がエリアお姉様。その次がお母様。そして私。シリアお姉様が一番下に置かれていますわ」
対外的には私達三姉妹は皆「侯爵令嬢」だ。扱いは変わらない。ただそもそも社交界に出ているのはエリア姉様だけだ。
「それで社交界にも出ていないと? シリア嬢は既に結婚相手を見つけるべくそれぞれの家が画策する様な歳だと聞きましたが」
「ええ。私はまだですが、シリアお姉様は普通ならとうの昔にお披露目されているはずですわ。宮中にあいさつには参りましたが、お父様は義務でなければそれも止したいくらいでしたから」
「あなたはまだでしたね」
「私は来年の予定です」
そう。来年になると、今身につけている様な身軽な服ではなく、やや体型を整える下着をつけられ、歩きづらい裾を引くドレスをまとわなくてはならない。
それが楽しみというのが、まあ近場の同じくらいの歳の令嬢達。
「何故社交界には出さないのか、どう思われますか?」
「生まれと見掛けではないですか」
「やはりそう思いますか。それだけですか」
「どういう意味でしょう」
質問に質問を返しているような会話になってくる。
「侯爵はあの方をあくまで内々の存在にしておきたいのではないかと思いましてね」
おや、と私は彼の言葉に何となく疑問を持った。
「あの方、ですか?」
「シリア嬢ですね」
「いえ、その呼び方をなさるのかと思ったのですわ」
「あの方」。家族をも取り調べの対象にしなくてはならない重罪犯に、その呼び方はないだろう。
ならば。
「ファゴット子爵」
「何でしょう」
「失礼ですが、子爵はシリア姉様を個人的にご存じではございませんの?」
書記の、かりかりとペンを走らす手が止まった。
私達の間に沈黙が漂う。
「証拠は?」
「何も。他愛ない女子どもの勘だと言ったらよろしいでしょうか?」
くっ、と彼は肩を微かに引いて揺らした。
「なるほど。何かあったら妹を頼むとあの方が言うだけある」
「ご存じなのですね」
「知っているどころか」
ファゴット子爵は掛けていた眼鏡を取ると、真っ直ぐ私を見据えた。
「私はあの方と既に二年がところの恋人同士です」
私は目を丸くした。