「それではマリア嬢、貴女はこの件については何も思い当たることは無いとおっしゃるのですね」
「はい」
シリア姉様が捕まり、すぐに我が家には司法省の貴族担当の取調官エルドル・ファゴット子爵がやってきた。
小姉様一人で大それたことをしたのか、それとも家族ぐるみなのか、ということを調べるらしい。
事件が事件なので、担当官は家族一人につき一人ついているという。私達は皆それぞれの私室で取調官とその部下兼書記との三人だけにされた。
「形式的なものですが、まず貴女とシリア嬢の関係をご説明ください」
ファゴット子爵は落ち着いた声で問いかけてきた。
「形式的なものとおっしゃいますと」
「ある程度は調べてはおりますので」
「わかりました。ですがどこから話したものでしょうか」
「貴女方は皆、ある程度育たれてから対面されたと聞いております。その辺りから宜しくお願いいたします」
確かに。我が家の三姉妹が皆母親が違うということもよく知っているらしい。
「私がシリア姉様と最初に出会ったのは、まだ私が五つの時でした」
*
そう、今でもよく覚えている。
私が五歳のある日、それまで暮らしていた森に近い、こぢんまりとした家からこの屋敷に引っ越した。
今の屋敷とは比べものにならないくらい小さい。
それでも私とお母様、それにばあやと下働き一家三人、計六人が暮らすには結構な広さがあった。
私は花畑も近いその辺りで、のびのびと育った。
ところがある日、お父様の使いだという人がやってきて、私とお母様、そしてばあやだけを馬車に乗せて屋敷に連れていった。
そこで最初に会ったのは、白金色の真っ直ぐな髪に、灰色の鋭い目をした年上の少女――大姉様、エリアだった。
屋敷に入った私達を、彼女は階段からうさん臭そうに見下ろしていたことを今でも覚えている。
彼女はこれと言っても何も言う訳でもなく、階上の部屋の中に引き返した。お母様は彼女に頭を下げていた。
それからお父様というひとに初めて対面した。
私は男と言えば下働きの夫の方とその息子しか見たことがなかったから、お母様にくっついて身構えた。
「これがマリアか。可愛く育ったなあ」
「恐れ入ります」
お母様はそう言って、お父様に頭を下げた。
まあこういうことだ。
この家の夫人が亡くなった。そこで新しい正夫人として、それまで愛人として別宅に住まわされていたお母様が迎えられたのだと。
お母様はこう言った。
「先ほどお嬢様をお見かけいたしましたが」
「娘。さてどっちだったかな。庭か? 邸内か?」
庭? 私はそう思って首をかしげた。
どっちというくらいだ。もう一人いるということだろう。
「先ほど階段で…… 白金色の髪の方です」
「ならエリアだな。あれはこの間死んだ妻の娘だ。一番上だ。そう、マリアの六歳上になるかな」
「もう一人いらっしゃるのですね」
「ああ」
お父様はそれ以上言わなかった。
私は、その時ふと窓の方に目をやった。何となく目の端に不思議なものが居る気がしたのだ。
そう、黒い髪の女の子がのぞいていた。
それがシリア姉様との最初の出会いだった。