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韋誕   高所の恐怖2

突然話を東晋後期、百五十年後にすっ飛ばす。

韋誕いたん先生の話の後日談である。



東晋とうしんの王城、建康城けんこうじょうに、

新しい宮殿、太極たいぎょく殿が完成した!


偉大な書家として知られる王献之おうけんしは、

かの書聖、王羲之おうぎしの末っ子である。

ときの宰相、謝安しゃあんの副官として仕えていた。


なので謝安、

太極殿に飾る宮殿名の看板を、

王献之に依頼したいと思い、手紙を出した。


手紙を受け取った王献之、

使者にそれを突っ返す。


「そんなもの、外に放り出してしまえ」


その話を聞いた謝安、

後日王献之に会った時に聞く。


「題字を書いてから殿上に

 掛ければよいだろう。

 魏の時代の韋誕いたんのような達人も、

 自ら筆を執ったと聞くぞ」


すると王献之は返す。


「あんなことやらせる国だから、

 魏はすぐ滅んだんですよ」


王献之の返しに、

謝安さま、ほとほと感心したそうですよ。




太極殿始成,王子敬時為謝公長史,謝送版,使王題之。王有不平色,語信云:「可擲箸門外。」謝後見王曰:「題之上殿何若?昔魏朝韋誕諸人,亦自為也。」王曰:「魏阼所以不長。」謝以為名言。


太極殿の始めて成れるに、王子敬は時に謝公の長史たれば、謝は版を送り、王をして之に題せしめんとす。王に平らかざる色有り、信に語りて云えらく:「門外に擲箸すべし」と。謝は後に王に見えて曰く:「之を題して殿に上るは何若? 昔の魏朝の韋誕ら諸人、亦た自ら為したるなり」と。王は曰く:「魏が阼の長からざる所以なり」と。謝は以て名言と為す。


(方正62)




司馬懿3にもやや性格の似ているお話ですね。あちらは「これでは我が国も魏のように命運が短くなる、と言っているようなものではないか」でしたが、こちらは「うちの命運は、まぁそれでも魏ほど短くはなかったです。けどそんなこと書家にムチャブリするようなら、この国だってお先短いですよ」となりますでしょうか。ちなみに謝安と王献之はほぼ同タイミングに死亡しており、その後東晋は衰退にまっしぐらとなります。


謝安

この世説新語において、もっとも収録話数の多い人物。清濁併せのむ大器、と言ったような雰囲気で描かれる。ここでも王献之のどぎつい言葉を「ほほう、こりゃすごい」とか真っ正面から受け止めたりしている。まぁ細かい情報はまた追い追い。


王献之

上でも書いたとおり、あの王羲之の末っ子。そして書道界では、王羲之に匹敵するクラスの書聖とも知られる。しかし世説新語においては、どちらかというと無駄にプライドが高く、加えて兄の王徽之とともに奇行の目立つスットンキョーお兄ちゃんとして描かれる。

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