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楊脩3  碑を忖度す

曹娥碑そうがひ、と呼ばれる石碑があった。

父の不慮の事故に出遭い、

命を賭して行方不明の父の亡骸を探した

孝女「曹娥」の伝説を記した碑だ。


あ、ちなみに曹操そうそうとは全然関係ない。


さてその曹娥碑のもとに

曹操が楊脩ようしゅうを引き連れて

通りがかった時のこと。

曹操は、碑の上の方に

落書きがあったのを見かけた。


以下の八文字だ。

「黃絹幼婦外孫齏臼」


曹操「イミフ」

楊脩「ワカタ」

曹操「マジカ」


あぁ待て答えるな、俺に考えさせろ。

けどそのまま三十里くらい歩いてしまう。


曹操「ワカタ」


そして先に楊脩に答えを書かせる。


「黃絹は色のついた糸。絕と解する。

 幼婦は少女、ならば妙と。

 外孫は女(=娘)の子となるので、好。

 齏臼せいきゅうは辛い物を受ける臼。故に、辤。

 つまり『絕妙好辤』ですね。

 曹娥碑イイネ! ってところですか」


併せて書いていた曹操の答えも

同じものだった。


曹操「オゥフ」


俺の才能は楊脩に三十里及ばないのか。

そう嘆く曹操さまなのだった。

なんだそれ具体的だな。




魏武嘗過曹娥碑下,楊脩從,碑背上見題作「黃絹幼婦,外孫齏臼」八字。魏武謂脩曰:「解不?」答曰:「解。」魏武曰:「卿未可言,待我思之。」行三十里,魏武乃曰:「吾已得。」令脩別記所知。脩曰:「黃絹,色絲也,於字為絕。幼婦,少女也,於字為妙。外孫,女子也,於字為好。齏臼,受辛也,於字為辤。所謂『絕妙好辤』也。」魏武亦記之,與脩同,乃嘆曰:「我才不及卿,乃覺三十里。」


魏武の嘗て曹娥碑が下に過ぐるに、楊脩は從い、碑の背上に「黃絹幼婦,外孫齏臼」八字の題の作さるを見る。魏武は脩に謂いて曰く:「解けるや不や?」と。答えて曰く:「解けり」と。魏武は曰く:「卿は未だ言うべからず、我が之の思いたるを待つべし」と。三十里を行きて、魏武は乃ち曰わく:「吾れ、已に得たり」と。脩に別に知りたる所を記さしむ。脩は曰く:「黃絹、色絲なり、字にては絕と為る。幼婦、少女なり、字にては妙と為る。外孫、女が子なり、字にては好と為る。齏臼、辛を受くるなり、字にては辤と為る。いわゆる『絕妙好辤』なり」と。魏武も亦た之を記し、脩と同じくするに、乃ち嘆じて曰く:「我が才の卿に及ばざること、乃ち三十里と覺ゆ」と。

(捷悟3)




続けて読むと前二編、このエピソードの意趣返しじゃね? って印象にもなります。そうやって考えると、世説新語の曹操さまかわゆい。


なお世説新語に注を入れた劉孝標は「曹娥碑って会稽(※要は呉の結構な奥地)にあるから曹操が見れるはずなくない……?」とツッコミを入れています。無粋だなぁ劉孝標くんは、もう!

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