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第7話 魔法少女のスキル

 牧原は、霧島に導かれるまま構内を移動し、次々と魔法少女たちに会い、魔法を使ってもらう。

 剣、弓、盾、炎、雷、水、翼、飛行、モンスター、毒のすべてを見せてもらう。

 見てすぐにスキルを付与したモンスターを作りたかったが、犬モンスター三体をすでに作った状態だったので、それは我慢して、メモを取るだけにした。

「学校に来ていない奴も入れると、酸と金が増えるんだけど。さすがにその為だけに登校しろとは言えないので」

 霧島は言った。

「学校は休校なんだよね」

 霧島は当然肯く。

「ならしょうがないよ」

「私が、モンスターにスキルを付与して見せてやろう」

 大沢が言った。


 牧原たちは校舎の外へ出る。

 大沢は、酸のスキルを持ったモンスターと金のスキルを持たモンスターを作ると、スキルを使わせる。

「こんなことができるなら、初めから大沢が見せれば早かったんじゃないか?」

 霧島が言った。

「そんなことはない。作ったモンスターのスキルを見せるより、魔法少女のスキルを見せた方が圧倒的に良いに決まっている。今は、魔法少女のスキルが見せられないから、仕方なく代用しているだけだ」

 大沢は力説する。

「そう言うもんなの?」

 霧島が聞く。

「大沢さんがそう言うのなら、たぶん意味があるんだと思うよ」

 現地点では牧原も確かに良くわかっていなかったが、大沢の言う事が正しいと、後で分かることになる。

「それじゃあ、次は死体処理班の方だね」

 霧島が言った。

「そうだね。でも僕に相談って何だろう?」

 二人でそんな会話をしていると、大沢はいつの間にかいなくなっていた。

 牧原は、コッソリ大沢が去っていくのを気付いていたが、特に指摘をしなかった。


 牧原たちが、モンスターの死体置き場にしている場所へ向かうと、死体処理をしている魔法少女、相川が牧原たちを発見する。相川とは、牧原がモンスターの死体を食べるモンスターを作っていたとき、死体置き場で出会っていた。

「牧原さん、やっと来てくれた」

 相川は、大分待っていた。会議が終ってからすでに、二時間経過しているのだから当然ではある。

「僕に用事って何ですか?」

「アレなんですけど。アレ、牧原さんが作ったモンスターの死体を食べるモンスターですよね?」

 球体に目と口だけのモンスターがいた。しかし、大分大きくなっていた。

 モンスターの死体を食べるモンスターは七センチぐらいの大きさなのに、相川が指差したものは三十センチぐらいの大きさにまで成長していた。

「確かにあり得ないほど成長しているね」

 牧原はモンスターを観察すると、モンスターの体内から魔力のような物を感じた。そして、元人間のモンスターの死体の額にある、元魔法石を連想した。

「他の子より、いっぱい死体を食べてくれるから助かるんだけど、この調子で大きくなったら、駆除しないと危険かもと思って」

 相川が言った。

「確証はないけど、心当たりはある。可哀そうだけど、まず殺してしまいましょう」

 牧原が言った。

「せっかく、成長したのにもったいない」

 相川が言った。

「あの大きいのは、死体をいっぱい食べてくれるから助かるんだが」

 霧島が言った。

「その分、死体を食べるモンスターを追加してあげるから」

 牧原は、三体の犬モンスターに大きなモンスターの死体を食べる個体へけしかける。

 一体があっさり、大きなモンスターの死体を食べる個体にあっさり頭をかじられ倒される。

 残り二体が、敵に噛みつきダメージを与える。

「人間を攻撃しない個体であっても、モンスターへの攻撃はするのか。これは勉強になった」

 牧原が言った。

 しばらくすると、勝負がついた。さすがに二対一では犬モンスターの方へ軍配が上がる。

 牧原は、倒したモンスターの元へ行く。

「このモンスターを解体したいんだけど、なんか切るものない?」

 牧原がそう言うと、霧島も相川も嫌そうな顔をする。

「こいつが大きくなった理由を知りたくないの?」

 そう言うと仕方なく、霧島が剣を出す。

「その剣貸してくれるの?」

「僕の体から離れると消滅するから貸せないよ。代わりにこれを切ってあげるよ」

 サクッと真っ二つに霧島は斬り裂いた。

 半分はポイッと捨てると、もう一つの方を牧原は、手をツッコむ。

「あった、あった」

 牧原はモンスターの血で塗れた手を出す。小さな石の破片のような物を持っているが、血塗れなので、ほとんどわからない。

「手を洗いたいんだけど」

 牧原が言った。

「可愛い魔法少女が手を血塗れにして言うとシュールだなあ」

 霧島が引きながら言った。

「僕の手を血塗れにしたくなかったら、刃物とか準備してくれないかな。モンスターの解体はあと何度かする必要があるので」

 相川が水道へ案内し、霧島が刃物を確保することにした。霧島は大沢の手斧を借りることにしたのだ。


 相川は、水道へ牧原を案内する。血塗れの小さな石を水道の蛇口がついている部分の上部に置くと、手を丁寧に洗う。手を洗い終わると、血塗れの小さな石を洗い始める。水流で落とさないように中止しながら、綺麗に血を洗い流す。

 血を洗い流し終わると、牧原は小さな石をジッと見る。

「この小さな石はいったい何なんですか?」

 相川が聞いた。

「僕もこんな形をしているとは思っていなかったので、まだ、完全に確信を持てていません。とりあえず、霧島さんが刃物を持って戻ってくるのを待ちましょう」


 牧原と相川が雑談していると、霧島が手斧と共に大沢も連れて来た。

「我が弟子、牧原よ。モンスターの急成長の謎が解けそうだと聞いたが、本当か?」

 大沢が言った。

「まだ、仮説です。その仮説が正しいか確かめようと思っているところです」

 牧原が言った。

「巨大化した死体処理モンスターから石を取り出したところよ」

 相川が言った。

「手斧を貸してください」

 牧原が言うと、霧島は牧原に手斧を貸す。

 手斧を受け取ると、犬モンスター二体を処分する。

「げ、牧原さんまで大沢がうつった」

 霧島が驚いて言った。

「我の弟子が我のマネをするのは当然だろ」

 大沢はさも当たり前であるかのように言った。

「これから、モンスターの死体を食べるチビ助を作っていく予定だ。犬モンスターが野生化したら誰かに迷惑かける可能性がある。誰かに迷惑かけたら困るだろ」

 牧原はモンスターの魔法少女に変身しなおす。そして、通常の大きさ、七センチぐらいの球体に目と口だけの姿で、人を襲わず、モンスターの死体のみを食べるモンスターを作る。

「その子は、普通の死体処理モンスターですよね?」

 相川が聞いた。

「こいつに、さっき取り出した石を食べさせる。そして、巨大化したら、あの石が巨大化した原因だと分かるわけだ」

 牧原が、さっき取り出し水洗いした石を掌に載せて説明した。

「なるほど。でも、その石の正体は分からないままではないですか?」

 相川が聞いた。

「まあ、焦りなさんな。物事は順序良く解決していかないとね」

 牧原は、小石を小さな球体の目と口だけのモンスター前に置く。

「この小石を食べるんだ」

 小さいモンスターに食わせる。すると、ぐんぐん巨大化して三十センチぐらいの大きさになる。

 すると、牧原は新しくモンスターにサブスキルを付与するサブスキルをマスターした。その為、牧原の動きは一瞬止まったが、他のメンバーは小さいモンスターが巨大化したのに気を取られて気付かなかった。

 牧原は平静を装う。

「これでさっきの小さな石がモンスターを巨大化させていたことが分かった」

 牧原は、思った通りの結果が出て、ニッコリする。

 霧島、相川は感嘆の声を上げる。

「次は、その小石の正体を突き止めなければな」

 大沢が言った。

「そうですね」

 そう言うと、牧原は、黒髪の魔法少女に変身しなおす。そして、目を閉じて精神集中する。すると、死体置き場にある物が一つあることが分かる。

「何をしているのだ?」

 大沢が、牧原に聞く。

「見つけましたよ」

 牧原が淡々と言った。

「何を?」

 霧島が聞いた。

 牧原は見つけたある物の元へ行く。そこには元人間のモンスターの死体があった。牧原は、皆の前で額から元魔法石の残骸を採取する。

 すると体の方は、ゲル状の物質になり、悪臭を放つ。

「くせー」

 霧島が言った。

 牧原はまた、モンスターの魔法少女に変身しなおすと、新たに小さい球体の目と口だけのモンスターを作る。そして、その前に採取した元魔法石を置く。

「この小石を食べるんだ」

 そう指示すると、小さいモンスターに食べる。すると十五センチほどの大きさまで巨大化する。

「え!」

 大沢、霧島、相川の三人が驚く。

「つまり、石の正体は元人間のモンスターの額にある、元魔法石の残骸を食べたのが原因です」

 そう言うと、黒髪の魔法少女に変身し、二体のモンスターを手斧で処分して小さな石をそれぞれ取り出す。元魔法石だった方も楕円の形から先が尖った小さな石になっていた。

 牧原は、血塗れの小さな石を水道まで行って洗う。

 綺麗に洗うと二つの石を掌に並べるように載せて見せる。

「こういう事だよ。スキルを付与すると小さくなるのを、この石で元に戻せる感じかな」

 牧原が言った。

「それじゃあ、元人間のモンスターの額にある元魔法石の残骸は、今までただのゴミだと思っていたけど、モンスターの魔法少女には有益アイテムってことか!」

 霧島が言った。

「それじゃあ、今度見つけたら、牧原さんに差し上げますね」

 相川が言った。

「私にももってこい」

 大沢が相川に圧を掛ける。

「は、はい~」

 相川は、圧に負けて応じてしまう。

「こらこら。下級生を虐めなよ」

 霧島が大沢を窘める。

「我の崇高な研究を進めるためだ。仕方あるまい」

 大沢は勝手な言い分をいう。

「だったら、大沢もモンスターの死体を食べるモンスターを作れば良いじゃないか。お前の作ったモンスターが巨大化したら、お前に伝える。牧原さんが作ったモンスターが巨大化したら牧原さんへ伝える。なかなかフェアじゃないか」

 霧島はニヤリとしながら言った。

「牧原の分は我へ、我の分は我へ。弟子の物は師匠の物と決まっているだろう」

 大沢がそう言うと、牧原はブッと吹き出す。

「何がオカシイのだ?」

「ジャイアン理論をいうから。モンスターの死体を集めたのは、学校の魔法少女たちでしょ。権利は死体を集めた魔法少女たちにあると思うよ。そもそも、今まで元人間のモンスターの死体から入手できる石が、モンスターを大きくする効果があるって知らなかったわけだし」

 牧原がそう言うと、霧島は「そう言う考え方もあるな」と言った。

「この二つの石は、こういう効果があることを解明した駄賃としてもらっても良いかな。他に試してみたいことがあるから」

「全然問題ないですよ。牧原さんにはいろいろお世話になっているしね」

 霧島は承諾する。

「おい勝手に許可するなよ」

 大沢が止めようとする。

「僕は、魔法少女総会から、権限を与えられているから、この程度の許可を出しても誰も文句言わないはずだよ。それに魔法石の残骸にこんな効果があるのも初めて解明してくれた。この程度のお礼でも少ないぐらいだ」

 大沢は納得していないようだったが、牧原はありがたくもらうことにした。

「ところで、この手斧貸してもらえないかな」

 牧原が聞いた。

「それはダメ。一個しかないんだから」

 大沢が断る。

「それなら仕方ないね。何とかするよ。それじゃあ、約束通り、モンスターの死体を食べるモンスターを作るよ」

「いや。その必要はない。我が作っておく」

 霧島は、クスクス笑う。

「良いんですか? 手伝いませんよ?」


 結局、牧原はこの後すぐに帰ってしまい、大沢が一人でモンスターの死体を食べるモンスターを一人で作った。


 牧原は、自宅へ霧島に送ってもらう。その道の途中。

「牧原さんは、どうしてモンスターを同士討ちさせて、行列を止めたり、非常事態宣言の中、外出したりするんですか?」

 霧島が聞いた。

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