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第6話 モンスターの異常進行

 朝食の準備をしていると、家の外から物音がしたのでリビングから外を見ると、道路いっぱいにモンスターがいた。すべてのモンスターが左から右の方向へ歩いていた。モンスターの大群が、バラバラと同じスピードで歩いて行く。

「何だよこれ……、ありえないだろ」

 牧原は驚愕する。

「この町は、どうしてこんなことになってしまったんだ」

 そんな独り言をいうと、腹が鳴った。

 まだ朝食の準備中でまだ、朝食を食べていなかったからだ。とりあえず、朝食の準備を続ける。




 牧原は朝食を終えると、職場のメンバーが参加しているSNSをスマホでみる。職場は特別区二十三区内にある。当然職場も非常事態宣言の影響を受けている。東京以外に住んでいる社員であっても、出社はできない。

 すでに上長の書き込みがあった。

『まだ、総務から正式な指示は来ておりません。本日の業務が休みになるかどうか、まだわかりません。

 自身の身の安全確保を最優先に行動してください。職場は東京都の非常事態宣言下にあります。出社予定の社員で在宅勤務に切り替えが可能の場合は、在宅勤務に切り替えてください。在宅勤務に切り替えが不可能で有給休暇の取得可能の場合は休暇を取得してください。有給休暇を取得できない場合は、個別に連絡ください。

 特別区二十三区内在住の社員は、避難指示が出た場合、業務より東京都の避難指示を優先させて行動してください。特別区二十三区内在住の社員は、個別に連絡ください』

 個別に連絡を取ると、有給休暇を取得することを勧められ、引継ぎが必要な業務は、引き継いで欲しいと指示された。

 本日は元から在宅勤務の予定だったので、引継ぎ資料を慌てて作成し、チームメンバーに連携した。

 そして、本日の業務は終了とし、休暇となった。

「外はモンスターだらけだというのに、仕事の引継ぎとはね。僕が死んでも会社は生き残るって訳だ」

 牧原は自嘲気味に言った。

 東京特別区、二十三区外は、モンスターもいない普通の日常が続いているのだ。




 引継ぎ資料等を作成している間は、現実逃避できていた。

 だが、今は、現実に引き戻されていた。

 見たくはなかったが、リビングから外を眺めるとやっぱりモンスターが道路いっぱいに歩いていた。

 牧原は、霧島から「モンスターはライトピラーからやって来る」と聞いていたが、一体ライトピラーにはどんだけモンスターがいるんだろうと考えを巡らす。



 しかし、牧原は、勘違いしていた。

 ライトピラーから出てきて、そこからずっと行列をなしていると思い込んでいた。しかし、実際には、一万体ぐらいのモンスターが、同じ場所をグルグル回っているだけで、ライトピラーから新規のモンスターが増え続けているわけではなかった。とは言え、一万体は少ない個体数ではないが。


 牧原は、モンスターの魔法少女に変身すると、弓のスキルを付与した直径十五センチメートルの毛玉モンスターを三体作る。そして、もし攻撃されたら避けやすい視界が広い魔法少女に変身しなおし、作ったモンスターと一緒にベランダにでると、三体の毛玉モンスターをベランダの淵に置いた。

「道路に居るモンスターを撃て」

 そう命じると三体とも撃った。

「撃って撃って撃ちまくれ」

 さらに三体の毛玉モンスターたちは、撃ちまくった。攻撃は命中しているが、大したダメージを与えていなかった。

「やっぱり無駄だったか」

 牧原は毛玉モンスターの一体を掴んで、モンスターたちが大勢いる道路へ投げる。

 投げられた毛玉モンスターは、手が鎌のモンスターの頭に命中する。毛玉モンスターは、投げられた後も矢を撃ち続けていた。鎌のモンスターは、小さいとは言え、顔面に矢が命中するとさすがに怯む。

 怯むと、近くの別のモンスターと体が当たる。体を当てられた方は、攻撃を受けたと勘違いし、当たったモンスターを攻撃した。牧原にとって好都合なことに、同士討ちを始めた。

「これは使えるんじゃないか!」

 もう一体毛玉モンスターを掴んで、また別のモンスターを目掛けて投げると、同様に同士討ちを始めさせる。上手くいったので、最後の一体の毛玉モンスターを別のモンスター目掛けて投げた。そこで、同士討ちを始めされられる。

 同士討ちを道幅全体に広げることに成功した。その為、牧原の家の前を境に、境の右側のモンスターの流れが止まり、先に行ったモンスターは先へ行ってしまう。

 同士討ちで、死んでいくモンスターがどんどん増えていく。


 五分ほどしたら、新規のモンスターがやって来なくなった。そして、辺りにいたモンスターはほとんど死ぬかどこかへ行ってしまった。

「とりあえずは、モンススターの増加は防げたのかな」

 牧原は、この時はまだ知らなかった。モンスターたちはただ行列のルートを変更しただけである。さらに言うと、元から増加は止まっていたのだ。




 牧原は、少し困っていた。

 八月のこの暑さで、モンスターの死体の山が家の前に転がっていることに。このまま、ここで腐ったらご近所中悪臭塗れになるのは、想像に難くない。

「モンスター一体の死体を手土産に運んでもらうように頼もうかな」

 牧原は、モンスターの魔法少女に変身し、玄関を出る。玄関のカギを掛けると、護衛として犬モンスターを作り出す。再び黒髪の魔法少女へ変身しなおすと木戸へ向かう。木戸を開けて、一歩出て木戸を閉める。

 牧原は、モンスターの死体を踏まないように上手く避けながら進む。犬モンスターは、モンスターの死体を気にせずに進む。

 モンスターの死体が疎らになり、死体の山の端にある死体の足を持つ。そして、引き摺りながら運び始める。


 牧原がしばらく引き摺りながらモンスターの死体を運んでいると、魔法少女五人が近づいてくるのが分かる。

「一人は、霧島さんだ。死体運びを手伝ってもらおう」

 五人の魔法少女たちは、牧原を発見すると近づいて来る。

「何やっているんですか! 今はどのぐらい危険か、もう分かっているでしょう?」

 霧島が出合い頭に行った。

「危険なのは分かっているけどね。僕の家の前にモンスターの死体がいっぱいできてしまったので運んでもらおうと思って、高校まで行こうと思ったんだよ。この死体を運んでいるのはついでだね」

 牧原はそう言うと、霧島は脱力する。

「用事があったら通話アプリで連絡くださいって言ったでしょ」

 牧原は苦笑いを浮かべる。

「でも、死体の数多いよ」




 牧原は、霧島たちを連れて自宅の近くまで連れてくる。

 霧島たちは死体の多さに驚く。

「これ、牧原さん一人でやったの?」

 霧島が聞いた。

「殺したのかと言うと違うけど、この状態になったのは僕が原因だね」

 牧原は、苦笑しながら言った。

「どうやったの?」

「同士討ちをさせたんだよ。モンスターの行列に僕の作ったモンスターを投げ入れたら、行列を乱したモンスターが戦闘を始めちゃってね。そのあと、勝手に自滅していったんだよ」

「モンスターの魔法少女のモンスターにこんな使い方があるなんて思わなかったよ」

 霧島の仲間の魔法少女の一人、大島が言った。

「使い方と言っても、モンスターが一ヶ所に集まっていないとできないからね」

 牧原は釘を刺す。

「牧原さんは、同士討ちさせるためのコツみたいなものが分かっているみたいですね」

 霧島が言った。

「うん。まあ。そうだね」

「だったら、ウチの高校まで来てくれますか? コツを教えて欲しいので」

「うん。それは、全然かまわないよ」

 交渉が済むと霧島はスマホを取り出すと、通話アプリで話始める。

「今、牧原さんの家の前なんだけど、モンスターの死体がいっぱいある。死体運びのノルマが達成できていないのを集めて運んじゃって。東口の裏門から運び入れた方がたぶん早いから。それじゃあ、頼んだよ」

 霧島はそう言うと電話を切る。

「死体運びのノルマなんてあるの?」

「先生が勝手に決めたんだけどね。前にも言ったと思うけど、都知事に死体処理を多くやった高校から先に避難させてくれるらしいから」

 霧島がそう答えると「うーん」と牧原は唸る。

「質問して良いかい?」

 霧島は促す。

「非常事態宣言なのに、生徒たちは登校しるの?」

「登校していませんよ。いま学校に居るのは、土曜日に部活で登校していた奴だけですよ。つまり俺たちは、土曜日から学校で寝泊まりしています」

「なるほど。解せないことがあるけど、ま、いいか」

「解せない事って?」

「都知事が高校生にモンスターの死体の処理をさせる指示なんてするかなと思ってね」

 牧原は怪訝な顔をして言った。

「なんでも、モンスターの死体が道路に転がっていると、緊急車両が走る邪魔になるからだそうですよ」

「緊急車両ねぇ。こんなにモンスターがいっぱい居るのに、パトカーも救急車も来ないのにね」

 牧原が不満そうに言う。

「確かに一利ありますね。とは言え、武器を持たない一般市民は、魔法少女でもない限り、モンスターと戦えませんよ」

「アメリカのような銃社会なら、民間人でも銃を持っているかもしれないけど、日本じゃ警察官かヤクザぐらいしか持っていないからね」

 そんな会話をしていると、霧島の電話に着信がある。

 霧島はしばらく会話をしている。

「うーん。牧原さんに用事がある奴がいるんですけど、モンスターを同士討ちさせるコツを教えてもらった後、そいつと話をしてもらえませんか?」

「それは全然かまわないけど」

 霧島はニッコリする。

「それじゃあ、学校まで来てもらえますか?」




 牧原は、豊島第十高校の会議室に通された。

「校舎の中、結構綺麗なんですね」

 牧原が言った。

 霧島はニッコリする。

「まあ、清掃は生徒たちで平日は行っていますからね」

「あ、そう言えば、僕が高校生の時も掃除やっていたな」

 二人で雑談していると、三人の魔法少女がやって来る。

 三人の内二人は顔見知りだった。一人は毒の魔法少女の白谷で、もう一人はモンスターの魔法少女の大沢だった。

「私は生徒会長の石田と言います」

 綺麗な金髪のボブカットで、黄色を基調にした白のラインが入った和装のような服で綺麗な下駄のようなサンダルをはいた魔法少女が言った。

「牧原です」


 牧原は、挨拶のあと、モンスターを同士討ちさせるテクニックについて説明した。

「つまり、モンスターの隊列を乱し、モンスター同士の体が接触するように仕向ければ同士討ちを始めるわけですね」

 牧原は肯き、「そうです」と肯定する。

「参考になりました。大沢さん。あなたでもできますか?」

 石田が大沢に聞いた。

「我が弟子にできたことを、我ができない訳が無かろう」

 大沢は、なぜか偉そうに言った。

「では、牧原さんには、モンスター処理班から質問があるそうなので、答えてもらえないだろうか?」

 石田が聞いた。

「それはもう、俺が許可とってるんで大丈夫ですよ」

 霧島が言った。

「もちろんいいですよ。ただ、僕からもお願いがあって、いろんな種類の魔法を見せて欲しいのですが?」

 牧原が聞いた。

「うん。我が弟子の修行に必要なことだ。許可してもらいたい」

 大沢が何故か口添えする。

「それはご自由にどうぞ」

 石田は快く許可を取る。

「それじゃあ、霧島君頼んだわよ」

 石田が、霧島に振った。

「え。俺」

「牧原さんは、あなたの客人ですからね」

 そう言うと石田は会議室から出て行く。

「コツを聞きたいと言って招いたのは生徒会長だろう」

 霧島が言った。

「ごめんね。手間かけさせて」

 牧原が、申し訳なさそうに言った。

「牧原さんの為なら、別に構わないさ。それじゃあ、モンスターの死体処理班の方へ行こう」

「いや。魔法を見せてもらう魔法少女巡りが先だ」

 何故か大沢が言った。 

「いや、でも困っている人の対応の方が先じゃないかな」

 霧島が言う。

「いや。魔法を見せてもらう魔法少女巡りが先だ」

 霧島と大沢が、牧原をジッと見る。

「えーと、僕はどっちが先でも良いかなぁ」

 結局、大沢の圧が強くて、魔法を見せてもらう魔法少女巡りが先になる。

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