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第5話 死体消失のなぞ解明

 あともう少しで、豊島第十高校の校門まであと十メートルぐらいの場所まで来ていたが、とうとう牧原と江波は、挟み撃ちに有ってしまい、逃げきれずモンスターとの戦闘になる。

 二対十の絶対的に不利な状況で背後からの攻撃を受けてしまい、大ダメージを負ってしまった。

 牧原が、「全滅するパターンだ」と思った時、豊島第十高校の方から、斬撃飛ばし、矢などが飛んできて、モンスターに命中する。

 霧島の他、数人の魔法少女がいて、モンスターを次々に倒していく。そして、あっという間に全滅させた。

 負傷している牧原と江波の元へ、霧島がやって来る。

「牧原さん、江波さん。モンスターが活性化しているときに何やっているんですか」

 牧原、江波、顔を見合わせる。

 牧原と江波は、「霧島さんと知り合いだったの」と二人同時。

 魔法少女たち全員笑う。

「モンスターが活性化しているなんて知らなかったよ」と、牧原。

「同じく」

 霧島は、呆れ顔で溜息を吐く。

「二人とも歩けますか?」

「体中彼方此方痛いけど、大丈夫だ」

 牧原が言った。

 モンスターの攻撃を受けた場所が、血で赤く滲んでいた。

「二人の傷の手当をしましょう。一旦学校へ来てください」


 霧島の案内で、牧原と江波は保健室に来た。

 中には、魔法少女、白谷がいた。

 プラチナブロンドのショートカットで、白を基調とした和装のような服を着ている。紫の帯をつけており、黒い髪飾りをつけている。黒い高下駄風のサンダルを履いていた。高下駄風のサンダルを履いて居てもそれでも背は低く感じられた。

「こちらは、毒の魔法少女の白谷です」

 白谷は、牧原と江波の二人に丸い椅子を準備する。

「毒の魔法少女って、どういう事?」と牧原。

「毒だけじゃなく、薬も作れるんですよ」と、霧島が答える。

「薬の原料は毒。毒から薬が作られるんですよ」

 白谷はそう言うと、牧原と江波は納得する。

「二人とも座ってください」

 二人が座ると、白谷は二人にまん丸の錠剤と水の入った湯呑を渡す。

「ゲロ不味なので、鼻をつまんで、一気に飲んでください」

 二人は嫌な顔をしながらも一気に飲む。

「に、臭いが鼻まで……」と、江波は咽る。

 牧原は顔色がみるみる赤くなり、突然フラッと倒れる。

「一体コイツに何を飲ませたんだ!」

 江波は驚き言った。

 しかし、白谷は落ち着き払って椅子に座っている。

「君が飲んだものと同じだよ」と白谷。

「それじゃあ、なんで俺は大丈夫で、牧原は倒れたんだよ」

 牧原は赤い顔で気を失っているので、江波は介抱する。

「これは魔力酔いだ」

 そう言うと白谷は、霧島に牧原をベッドに運ぶように指示する。

「魔力酔いってなんだよ」

「まだ、仮説なんだが、今使える魔力が弱く、魔力の潜在能力が強い魔法少女に、この薬を飲ませると起きる副作用だ」

「俺も、昔良くなった。昔と言っても三ヶ月ぐらい前の話だけどね」

 そう言うと霧島は、お姫様抱っこで牧原をベッドに運ぶ。

「心配ないのか?」

「自分の使える魔力と魔力の潜在能力のギャップのせいで、感覚が追いつかないのだろう。さっき飲んだ薬は、魔法少女の魔力を高めて、自然治癒力を高める薬だ。魔法少女を解除すると効果がなくなるので、注意してくれ」

「牧原さんは、聞いていないと思うけど」

 霧島がツッコむ。

「牧原さんには、目が覚めたら説明する」

 白谷は、今度は薬棚へ行くと、軟膏が入った入れ物を取り出す。そして、霧島に部屋から出て行くように指示する。

 白谷は、軟膏の薬の説明をすると、江波に服を脱ぐように指示する。薬を傷口に塗るためだ。

 白谷が薬を塗ると、江波は傷口に沁みて痛がる。

「しばらく我慢しろ。明日には痛みが引くどころか、傷跡も残らん」

 すべての傷口に軟膏を塗り終えると、「もう、家に帰っても良いぞ」と白谷は言った。

「家には、帰りたいんだが、俺たちモンスターから逃げ回って、学校の近くまで来ちまったんだぜ。帰れるかどうかわからん」

「だったら、霧島に家まで送ってもらうと良い。脳筋のアイツはそう言う時にしか使えん」

 白谷は、保健室の外まで聞こえるように大声で言った。

「誰が脳筋だって!」

 保健室の外から、霧島の声が聞こえた。


 牧原は、一時間程して目を覚ます。

 起き上がろうとするが、眩暈でもう一度横になる。横になって冷静になると、見覚えのない場所で寝ていたことに気付く。

「ここは何処だ?」

 牧原の独り言で白谷は、牧原が目覚めた事に気付く。それで、牧原の元へやって来る。

「豊島第十高校の保健室だ。私が与えた薬を飲んで、君は倒れたんだ」

 牧原は、江波と一緒に薬を飲んだことを思い出す。

「あの薬は何だったんです? 江波さんは大丈夫だったの?」

 白谷は、江波は無事であることと、薬は江波にしたのと同じ説明をした。

「目が覚めたのなら、傷を治す軟膏を塗りたいのだが、起きれるか?」

 牧原は、ゆっくり起き上がる。そして、ベッドの端を捕まりながら、立ち上がる。

 白谷は背中にも傷があることを確認すると、椅子に座るように促す。

「この軟膏を塗る。この薬は直接傷を治す効果がある。塗るので服を脱ぎなさい」

「この薬は、魔法少女でなくても効果あるんですか?」

 牧原は上着を脱ぎながら聞いた。

「もちろん。だが、魔法少女の方が治りが早いな」

 傷を庇いながら何とか服を脱ぎ終えると、白谷は牧原の胸をジッと見る。

 白谷は、胸の大きさ、牧原>江波>白谷と言うヒエラルキーに打ちのめされる。

「なんなんだ。このオッパイヒエラルキーは! 不条理だ」

「オッパイヒエラルキー?」

 牧原は、意味が分からず戸惑う。

「あの~。早く薬塗ってもらえませんでしょうか?」


 牧原は、薬を塗ってもらうと、大分痛みが引く。そして、魔力酔いも治まり動けるようになる。すると、霧島に会うように言われる。霧島は別室にいると聞き、行ってみると今度は霧島の案内でモンスターの死体がいっぱい置かれている場所に連れて来られる。

 モンスターの死体は、腐敗し、悪臭を放ち、大量の蠅を呼び寄せていた。

 牧原は、悪臭に顔を歪ませる。

「なんで、こんなにモンスターの死体があるの?」

 牧原は聞いた。

「町中で退治したモンスターをここに回収しているからですよ」

 霧島が答える。

「なんで、そんなことをしているの?」

「都知事に言われたかららしい。なんでも、モンスターを多く回収した高校の生徒から先に避難させてくれるらしいですよ。本当かどうか判りませんけどね」

「道路のモンスターの死体が少ないのは、このせいか」

「モンスターだけじゃなくて、人間の死体もね。もちろん、人間の死体は、可能で有れば遺族に返し、ダメなら警察だね」

「遺族に返すこともあるんだ」

「殆ど警察経由だけどね」

「そうなんだ」

『中村のおばちゃんも警察から、遺族に返されたのかなぁ』と牧原は考えた。

「とりあえず、お願いがあるんですよ」

 思いに耽っている所に、霧島が急に切り出す。

「なんですか? 僕にできることならやらせてもらうけど」

「モンスターの死体を食べるモンスターを作ってもらいたいんだ」

「江波に聞いたんですね。実はさっきも試しに作ったんですよ。でも、モンスターの死体しか食べなくなるだけで、僕の支配から外れたら、人を襲わない訳じゃないですよ」

「だから、死体を食べる能力と、人に危害を加えないの二つの能力を付与して欲しい」

 牧原は、霧島の言った事に驚く。

「能力付与って二つ同時に与えることができるの?」

「大沢はできると言っていたよ」

 霧島と牧原は、モンスターの死体を避けながら、死体置き場を歩く。真夏の暑さもあり、腐敗による不潔感と悪臭の酷さは、最悪だった。

「この状況はなんとかしないといけませんね。やってみましょう」

 牧原は、球体に目と口だけのモンスターを作る。さらにモンスターの死体を食べる能力を付与すると、半分の大きさになる。さらに、人間に危害を加えない制約を付与したら、さらに半分になり、七センチメートルぐらいの大きさになる。

「モンスターの死体を食べろ」

 自作のモンスターに命じると、近くにあるモンスターの死体を食べ始めた。

 すると、モンスターの死体を食べようとしているが、喰いちぎれないようだった。

「歯を鋭くしないとダメか。作り直そう」

 牧原が言った。

 とりあえず、モンスターの死体の細かい破片や腐り掛けている所を食べさせることにした。

「コイツ。僕の支配が外れたら生きて行けるのかな?」

「心配するんだ」

「心配と言うより、コイツも死ねば、小さいけど、モンスターの死体が増える訳だし。少なくとも自分の体積以上の死体を食べてもらわないと」

「確かに一理ありますね」

「モンスターを作りながら、能力付与も同時にできるぞ」

 モンスターの魔法少女、大沢が現れて言った。

 牧原と霧島は、大沢に注目する。

「我が弟子、牧原が来ていると聞いてな、指導に来た」

 大沢は、なぜか偉そうに言った。

「モンスターの死体を食わせるだけのモンスター、目と口だけを与えるとはなかなか良いセンスだ」

 牧原は、笑いながら礼を言う。

「課題を与えよう。初めから能力を付与した状態のモンスターを作る練習をしたまえ」

 そう言うと、大きなペリカンのくちばしだけのようなモンスターを作る。

 くちばしモンスター、モンスターの死体をガブリと口いっぱいに頬張ると動かなくなる。

「手本だ」

 大沢は、そう言うと、立ち去ろうとする。

「来たんならお前も手伝えよ」と霧島が言ったが、大沢は無視して行ってしまう。

 くちばしモンスターの下あごのぶよぶよ部分がウネウネ動いている。

 牧原は、「うーん」と唸りながら、感心する。

「それじゃあ、人に危害を加えないモンスターの死体を食べるモンスターを作ってくれませんか?」

 霧島は改めて言った。

「課題も出されているし、練習の為にいっぱい作らせてもらいますよ」

「課題は無視しても良いですよ」

 そう言うと、霧島は苦笑する。


 二時間後。

  直径七センチメートルの球体に目と口だけのモンスターが、あたり一面に転がっている。その代わり、モンスターの死体は殆ど残っていない。

 そこに、様子を見に霧島が戻って来る。

「スゲェ。殆どモンスターの死体残っていない。それに全部牧原さんが作ったの?」

 牧原は肯く。

「モンスターの死体殆ど無くなったよ。持ち込まれたばかりの物が残っているけど」

 その死体も目と口だけのモンスターたちが食べている。

「これを四つほど頂いたけど、問題ないかな?」

 牧原は、懐からティシュを取出し、元人間のモンスターの死体から取った元魔法石を四つ見せる。

「別に問題ないけど、こんなもの集めてどうするの?」

「何かの役に立つかもしれないと思って。微かだけど、魔力を感じる。正確には、もう一つの魔法少女でいるときだけどね」

「そうなんだ。僕は元人間の額の石に魔力なんて感じないけどね」

「もう一つ報告があるよ。能力付与2のサブスキルが使えるようになったみたい」

 牧原はそう言うと、鳥型モンスターを作ると、鳥型モンスターは飛んだ。

「飛行のスキルと人間に危害を与えない制約を付与したモンスターだよ」

 霧島は、こんな短期間でサブスキルを習得出来たことに驚く。

「大沢さんの課題をこなしたお陰かな」と言うと、牧原はニッコリ笑う。

「偶然だって」と、霧島はツッコむ。


 霧島に案内されて牧原は、モンスターの死体置場から移動していた。

「牧原さんにはお礼をしないとな」

「モンスターに襲われている所を助けてもらったし、大沢さんや白谷さんにはお世話になったし、お礼なんて良いよ」

「そう言ってもらえると助かります」

「その代わりと言うか、家まで送ってもらえますか?」

「それは、初めからそのつもりですよ」

「今日ほど、自宅から豊島第十高校が遠いと思った事ないよ」


 牧原は、霧島を含めた豊島第十高校の魔法少女たちに送ってもらった。

「僕の家はここです」

 牧原は、自宅を指差す。

「本当に近かったんだ。戦闘が無ければ三分だね」と、霧島が言った。

 牧原は礼をいう。

 校門から牧原の家に到着するまで、三回も戦闘になっていた。当然、牧原一人では帰れない。

「本日は一人で外出しないでくださいね」

「頼まれてもしないよ」

「用事があったら通話アプリで連絡ください」

 そう言うと、霧島たちは高校へ帰って行った。牧原は、手を振って見送る。

「そうさせてもらうよ」


 牧原が、自宅に帰ってリビングに戻ると、三時ちょっと過ぎだった。

 お昼ご飯を食べていなかったので、カップラーメンを作る準備でお湯を沸かし始める。

 待っている時間が勿体ないので、テレビを点ける。

 モンスターの被害がどのぐらい出ているのか、調べようとチャンネルを変えるが、どの番組もニュース報道していない。

 牧原は、どうしてテレビで報道していないのだろうと思いながらも、ネットで調べ始めたが、お湯が沸いたので、食事にすることにして、調べるのは後にした。


 八月の二週目月曜日の朝。

 天気は良く、この日も日差しが強く、暑い朝だった。

 牧原は、リビングにやって来て、灯りを点け、エアコンをつける。

 昨日、牧原は寝巻を脱ぐとモンスターに付けられた傷を確認すると、傷跡も残らず回復していた。

「白谷さんの薬凄いな」

 牧原は、安堵し、モンスターの魔法少女を解除する。


 朝食の準備をしていると、家の外から、物音がする。

 牧原が、リビングのシャッターを開けると、部屋に光りが差し込む。

 目が慣れ、リビングから外を見ると、道路いっぱいにモンスターがいて、すべてのモンスターが左から右の方向へ歩いていた。所狭しと、モンスターがいない場所がないぐらいの大群が、バラバラと同じスピードで歩いて行く。

「何だよこれ……、ありえないだろ」

 牧原は驚愕する。

「この町は、どうしてこんなことになってしまったんだ」



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