牧原と霧島は、三匹のペケチュウを伴って体育倉庫へ向かう。
「大沢の説明は役に立ちましたか?」
「ええ。ただ、あの説明をモンスターを作らされる前にして欲しかったよ」
「あいつ。悪い奴じゃないんだけど、偏屈だから。あれで元の姿になっても結構可愛いんだけど、性格があれだから友達も少なくてね」
牧原は、作り笑いを浮かべる。
「とりあえず、当面モンスターを上手く作れる様に練習しないといけない訳ですよね。ただ……」
「何か心配事でも?」
「出来損ないができたら、大沢さんの様に処分できるかなぁと思ってね」
霧島は、思わず吹き出す。
「あいつ。容赦なく殺していたもんな」
「僕も出来損ないができた時の処分用に手斧を購入しないといけないかなぁ」
霧島は、さらに、思わず吹き出す。
牧原と霧島が体育倉庫前に到着すると、霧島は、体育倉庫を開ける。そして、金属バットが入れてある箱を出す。
「残り五本しかないや。好きなの選んでください」
五本ともボコボコに凹み歪んで、モンスターの体液で汚れている。
「全部凹んでいるみたいだけど」
「モンスターたちと戦った証です」
牧原は、適当に一本選ぶ。
「失敗作のモンスターができたら、そのバットで殴ると良いよ」と、言うと霧島は笑う。
牧原は、複雑な表情で「それも嫌だなぁ」と言った。
牧原は、家に帰ろうと、校門まで来ると、野生のモンスターが三体いた。
牧原は、校門を少し開け、自分のペケチュウ三体をモンスターと戦わせる。モンスターの一体が口から矢を拭き、三体のペケチュウを次々と倒して行く。
しかし、モンスターは、構内にいる牧原には一切攻撃してこない
牧原は、ペケチュウを三体作っては、モンスターにけしかけるが、あっさり倒されていく。
異変に気付き、別れたばかりの霧島がやって来る。
「牧原さん。あれ、退治していいですか?」
「どうぞ。退治しないと帰れないし」
霧島は、校門を一人通れる程度に開き、外へ出る。牧原はめげずにペケチュウを作ってけしかける。
その間に、霧島はあっさりモンスターを退治してしまう。
「僕のペケチュウ全然役に立たなかった」
「囮として役に立ちましたけどね」
霧島は、牧原が持っている金属バットを指差す。
「戦闘には、その金属バットの方が役に立ちますので、使ってください」
牧原は、無事自宅に帰って来れた。連れて歩いていたペケチュウ三体は門番代わりに木戸の傍に置いておく事にした。
「戦闘の役に立たなくても、門番代わりぐらいはできるだろう」
この日の夜、ペケチュウは門番を継続していた。
八月の第一日曜日の朝になった。天気は良く、異常に暑かった。
牧原は、魔法少女に変身せずに家から出てきて、木戸を見るとペケチュウは斬り殺されていた。
「いったい何者の仕業なんだろう。危険なモンスターなら排除しないと」
牧原は魔法少女に変身し、ペケチュウを三体作る。
「ペケチュウ。三体を殺した犯人を探せ」
ペケチュウ達は、辺りをウロウロしている。
「やっぱり、無理か~」
牧原は、食事を取ってから、辺りを少し見回る事にした。
朝食を終えた牧原は、超感覚の魔法少女に変身し、金属バットで武装し、ペケチュウ三体を連れて見回りを始めた。牧原は、感覚を研ぎ澄ますと、近所の家の中に、人の気配がするのが分かる。そして屋外には誰もいない。
しばらく歩いていると、曲がり角の向こうから、誰かが歩いてくる気配を感じる。モンスターではない。魔法少女の様だが、敵か味方かは分からない。
牧原は、立ち止まり、ペケチュウを先行させる。
曲がり角から魔法少女が現れる。こげ茶色のポニーテールで、スカイブルーの和装のような服を着ている。胸元が少し開いていて、胸の谷間が少し見えた。
「やったー。モンスターだ」
現れた魔法少女は、剣を出すと斬撃を飛ばし、ペケチュウ一体を倒す。他の二体は直接剣で斬った。
牧原は、『 間違いなくコイツが犯人だ』と思った。
「お嬢さん。大丈夫だったかい?」と、言うとポニーテールの魔法少女は近づいて来る。
「人が作ったモンスターをなんで勝手に殺すんだよ」
魔法少女は驚く。
「お嬢さんはモンスターの魔法少女なのかい? 申し訳ない。君の作った物とは思わなかったんだよ」
牧原は、モンスターの魔法少女へ変身すると、新たにペケチュウを三体作る。
「へぇ。簡単にモンスター作れるもんなんだね」
「野生のモンスターでペケチュウはいないから、勝手に殺すなよ」
そんな会話をしていると、牧原の後方から、野生のモンスターが三体やって来る。
「あれは君が作った物じゃないよね」
「あんな大きなモンスターは作れません」
江波は斬撃を飛ばして一体に攻撃が命中し、牧原は、ペケチュウ三体に攻撃を指示し、金属バットを構える。
江波の攻撃を受けたモンスターは、ダメージで少し動きが止まり、他のモンスターはペケチュウを攻撃し、ペケチュウ二体が倒される。
江波は、同じ個体に斬撃飛ばしで追撃し倒す。牧原は、ペケチュウ一体生み出す。残りのモンスターは残ったペケチュウと新たに生み出されたペケチュウを倒し、牧原たちの方へ迫る。
江波は迫ってきたモンスターの一体を剣で斬って倒す。牧原は、金属バットで殴ったが、ダメージを与えたが、倒せない。そして江波が止めを刺す。
モンスター三体、ペケチュウ四体の死体が転がっているのを見て、『一人じゃ戦えなかったな』と思った。
「大丈夫かい? お嬢さん」
「ありがとう。助かりました」
牧原が礼を言ったので、江波は安堵する。
「余計だったかな?」
「僕一人だったら、逃げなければならなかったよ」
江波は、ニッコリする。
「戦況分析は正確にできるようですね」
「僕が弱いって言いたいわけ?」
「RPGでも、役割ってあるじゃない。俺は前衛、お嬢さんは後衛。君のモンスターが敵の的になってくれたお陰で楽に倒せた」
「その分析は、あながち間違っていないと思います」
「ここまで話しが通じるなら頼みがある。俺、斬撃飛ばしの練習をしているんだが、手伝ってくれないか?」
牧原は、「はぁ?」と怪訝な顔をしながら言った。
江波は、斬撃飛ばしの練習の為、動く標的が欲しいが、調達出来ない。そこで、牧原のモンスターで練習したいと言う事だった。
モンスターの魔法の練習には、モンスターを作っては処分する必要がある。正直牧原には自分で処分するのは抵抗があったので、手伝う事にした。少なくとも自分で処分しないで、モンスターの魔法の練習ができるからだ。
「俺の名前は江波。よろしくな」
「僕は牧原です」
二人は、近くの公園まで行って、牧原はモンスターの魔法の練習、江波は斬撃飛ばしの練習をすることになった。
公園に到着すると、モンスターの死体がいっぱい転がっていた。
牧原と江波の二人は、モンスターの死体を一ヶ所に集める。その際、牧原は元人間のモンスターの死体の額にある、元魔法石の残骸を回収していた。
「何やっているんだ?」
「元人間のモンスターの死体から魔法石の残骸を回収しているんだよ」
死体の一体から魔法石の残骸を取ると、ゲル状になって死体が崩れる。
「うわ。くっせ~」
牧原は、持ってきていたポケットティッシュに包むと小袋にしまう。
「そんなのなんで集めるんだ?」
「変身できる程じゃないけど、ほんの少し、魔力と言うか、エネルギーのような物が残っているから、そのエネルギーを集めて何か使えないかなと思って」
「そんなことできるの?」
「現時点では、なんとも」
そう言うと、牧原は苦笑いを浮かべる。
二時間程、練習すると、江波は牧原自作のモンスターにほぼ完璧に斬撃飛ばしを当てられるようになった。
そして、牧原はサブスキル、能力付与が使えるようになった。
「それじゃあ、そのサブスキルで何かやってみてよ」
「それじゃあ、食性の設定と言うのをやってみるよ。モンスターの死体のみを食べるモンスターにできるらしいんだ」
昨日、ネットで調べた情報だ。魔法少女の事を調べても、ゲームやアニメの話ばかりだと思いきや、結構魔法石の事や、スキルの話もネットにアップされていた。ちなみに、食性の他には、行動パターンや制約などを加える事ができる。
牧原は、球体の体に、目と口だけが付いているモンスターを作る。そして、食性を設定すると半分の大きさになる。
「急に小さくなったぞ」
「サブスキルを与えると大きさが半分になるんだよ」
「へえ。面白いな」
牧原が作ったモンスターはモンスターの死体を食べ始める。
「細かい破片から食べるんだ」
そう指示すると細かい破片から食べ始めた。
「コイツにモンスターの死体を全部食べさせれば、腐らせなくて済むな」
「コイツ一体だけで、これ全部は食べ切れないよ」
牧原は、追加で同じモンスターを二体追加した。
「これでも焼け石に水かな」
牧原は苦笑する。
十分後、牧原自作のモンスター三体は、一回り大きくなり、モンスターの死体を食べなくなった。
「食べなくなったぞ」と江波が言った。
「お腹いっぱいになったんだよ」
自作モンスターたちは、牧原の後はコロコロ転がりながら付いて来る。
「どうする。この死体腐るぜ」
すでにハエがたかっていた。
「でも、僕たちが来る前から有った死体の方が多かったとは思うけどね」
とは言え、牧原が、魔法石の残骸を取り除いて発生したゲル状の物質や江波の外れた攻撃の流れ弾が死体に当たって飛び散った破片やらで、酷い有様いなっていた。
二人が悩んでいると、公園に面した道路に八体のモンスターやって来た。
「死体の心配をしている場合じゃなくなったよ」
牧原が、江波に道路の状況を教える。八体のモンスターは明らかに二人の方へ近づいて来ている。
「逃げましょう。戦うには援軍が必要だ」
二人はお互いを見ると、一緒に肯く。
二人で戦うには三体までは余裕だが、四体で互角。五体以上は無理だった。
牧原は、自作モンスターをモンスターと戦うように命じると、二人一緒に走り出す。
「あのモンスターじゃ、時間稼ぎにもならないと思うけど」
江波が言った。
「僕たちの逃げる速さに付いて来れないし、放って置いて野生化して他人に迷惑かけたら困るだろ」
「納得」
二人は逃げ回り、彼方此方にモンスターの集団が居て、その内、二人の家から遠ざかり、霧島の高校の近くに来ていた。二人の背後からは、五体のモンスターが迫って来ている。すると前方からも五体のモンスターが現れた。
「ヤバイ。挟まれた」
江波も状況を理解し、舌打ちする。
「あっちを強行突破して、豊島第十高校へ逃げ込みましょう」
牧原が言う。
「その案。乗った」
江波もあっさり賛成する。
牧原は、モンスターの魔法少女へ変身し、犬のようなモンスターを作り、先行させる。
江波は、斬撃飛ばしで攻撃しながら、走る。
牧原自作の犬モンスターは、モンスターをスピードで翻弄しているが、攻撃力はあまりあてに出来ない状態だった。
牧原の犬モンスターは、足止めには使えているが、モンスターを倒せる訳ではない。その上、モンスターの方が多いので、江波、牧原も戦うしか無かった。
江波は斬撃飛ばしで一体なんとか片付けたが、それでも二対四である。接敵したところで、江波が二体のモンスターを倒したが、牧原は一体目にダメージを与えているが一体も倒していない。そして犬モンスターも一体倒されてしまう。
そこに後ろから追ってきていたモンスターが加わる。牧原も江波も攻撃を受けてしまう。
これヤバイ。全滅するパターンだ。