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第3話 モンスターの魔法少女

 牧原は、玄関からリビングに行く。

 近所のスーパーに行って、帰ってきただけなのに、大冒険であった。

 リビングに到着すると、安心感から溜息を吐く。

 しかし、自分が滅茶苦茶可愛い魔法少女になってしまったという現実は、牧原には受入れ辛かった。

「魔法少女から、元に戻る方法はないか聞いておけば良かった」

 とりあえず、リビングのテーブルの上に二つの魔法石を置いた。すると、牧原には世界が急に暗く、狭くなったと感じた。

 牧原は、自分の腕や腰を見ると、服が元に戻っていた。近くにある鏡をみると、元の男に戻っているのが確認できた。

 牧原は、もう一度、虹色に輝く魔法石を手に持って鏡で自分を見ると、金粉がついているかの様に所々がキラキラ光る黒髪に、白を基調にした金色のラインが入った和装の様な服の魔法少女に変身した。

「なんだ。魔法石を体から離せば、元に戻れるんだ」

 牧原は、気分が大分楽になった。

 すると現金なモノで、今度は魔法石について好奇心が湧いてきた。二つ目の魔法石についてだ。

 でも、魔法石についての手掛かりはほとんどない。おそらく霧島に聞いた方が速いだろう。

 とりあえず、部屋の静寂を壊すためにテレビをつける。

 スーパーで買ってきた物を冷蔵が必要な物を冷蔵庫へしまい始める。

 牧原が食品類を冷蔵庫にしまっていると、テレビがけたたましい音をあげ、急に番組が変り、ニュースキャスターのバストアップの映像に変わる。

『 東京都知事が都庁舎を脱出し、奥多摩の都施設へ避難しました。そして、その施設から、自衛隊の出動要請と特別区の住民に非常事態宣言を出しました』

 そう言うと、画面が切り替わると、大池百合香都知事が記者会見を開いていた。

『特別区23区に対して、非常事態宣言を発出します。自衛隊の出動要請をしております。

特別区の都民の皆様には、自宅に待機し、救助をお待ちください。決して屋外に出ないでください。出た場合、安全は保証できません。

 自衛隊が来るまで耐えて頂きたい。自衛隊が必ず助けに伺います』

 テレビの中の都知事がそう言うと、アナウンサーの声が被さるような内容に変わる。

「なんだよこれ。家に居ろってこと」

 牧原はそう独り言を言う。

「霧島さんは、この宣言の事を知っているのかな? 教えないと。それに二つ目の魔法石のことも聞かないと」

 牧原は、買ってきた物を片付けたら、霧島に会うため、豊島第十高校へ行くことにする。




 片づけが終ったら、虹色の魔法石を使って、魔法少女に変身し、さらにオレンジ色の魔法石をポケットにしまう。そして、豊島第十高校の校門へ向かう。

 中村のおばちゃんが、殺された辺りに行くと、すでに死体はなくなっていた。

「どうしたんだろう? そう言えば、モンスターに殺された高校生の死体もなくなっていたな。誰かが運んでいるんだろうか?」


 牧原は、霧島の学校の校門の近くまで来たところで、モンスター二体と遭遇する。

 武器になるような物は持っていなかったので、素手で殴ってみたがダメージを殆ど与えられなかった。

 しばらく戦っていると牧原は斬撃が飛んでくるのに気付いた。自分に当たらない事は分かっていたが、距離を取ると、もひとつ斬撃が飛んできて、二体のモンスターは倒された。

 斬撃が飛んできた方向を見ると、案の定、霧島が居た。

「やっぱり素手じゃ、無理だったか」

「魔法少女でも素手で戦うのは無謀だよ。武器は持ってないの?」

 霧島は呆れた顔で言ったので、牧原は肯く。

「だったら、金属バットを貸し出すよ」

「ところで、霧島さん。都知事が出した、非常事態宣言を知っているかい?」

 霧島は少し考える。

「非常事態宣言で、屋内に居るように言われているんだよ」

 霧島の表情を見て、牧原が付け加えるように言った。

「屋外に出るときは自己責任でって奴でしょ。知っているよ」

「なんだ知っていたんだ」

「ところで、牧原さんは、何しに来たの。用がないなら家に居た方がいいよ」

「霧島さんが、非常事態宣言を知らないかもと思って教えに来たんだよ。あと聞きたいこともね」

「聞いたいこと?」

「道に落ちていた魔法石を拾ったんだ」

「え。さっきの魔法石とは別にかい?」

 牧原は肯く。

「魔法石って一人で複数持って大丈夫なのかな?」

 牧原が聞いた。

「大丈夫だよ。だけど、二つ同時に変身は出来ないよ。二つ同時に持っていても、持ち主が自分で切り替える様に使うらしいよ。僕は試した事ないから、聞きかじりの話だけどね」

「もう一つ試してみてモンスターになったりしないよね」

 牧原は、不安そうに聞いて見た。

「それは大丈夫みたいだよ」

 霧島は笑いながら言った。

「僕も本当は二つ目が欲しいんだけど、なかなか手に入らなくってね。出来れば、炎か、雷の魔法石が欲しい」

「そんな魔法石もあるんだ」

 牧原はポケットから虹色の魔法石を紐のついた小袋に入れると、変身が解ける。

「牧原さんって、オッサンだったんだ。これがあの美少女に変身するなんて詐欺だなあ」

 霧島はからかう。

「うろさい」

「そんなことしなくても、変身を解こうと思うと手に持ったままでも変身を解けますよ」

「そうなの?」

 霧島は肯く。

 牧原は、虹色の魔法石の入った小袋をポケットにしまうと、オレンジ色の魔法石を手にすると、ゆったりとしたおさげの赤い髪、ベージュ色をベースとした襟や袖などに紅いラインが入っており、黒い帯の和装風の服を着た魔法少女に変身した。

「二つ目も可愛いなあ。中身はオッサンなのに」

「見た目は、鏡が無ければ分からないよ。そんな事より、どんなスキルかどうやると分かるの?」

 霧島は、苦笑いを浮かべる。

「呼吸を整えて、意識を集中して浮かんでくるイメージを実体化させるみたいな感じだよ」

 牧原は、呼吸を整えて、意識を集中すると、毛玉の様なモンスターのイメージが浮かぶ。すると、牧原の一メートル程前に、直径三十センチメートル程の巨大な毛玉のようなモンスターが発生する。

「これ、牧原さんが出したの?」

 牧原が肯くと、霧島は苦笑する。

「せっかくの二つ目なのに、モンスターの魔法石とはついてないですね」

「ついてないってどういう事?」

「魔法石が与えてくれるスキルには、当たりスキルとハズレスキルがあるんですよ。世間一般的にモンスターのスキルはハズレだと言われています」

 牧原は、腕組する。

「どう使うの?」

「とりあえず、モンスターを産み出してください」

 牧原は、二体目を生み出す。

「生み出せるのは一体だけじゃないんだ」

「続けてあと二体生み出してください」

 牧原が、三体目、四体目を生み出す。すると一体のモンスターが勝手に動き出す。霧島は勝手に動き出したモンスターを剣で突き刺して殺す。

「もう一体モンスターを生み出してください」

 牧原、もう一体追加でモンスターを産み出すと、また一体のモンスターが勝手に動き出す。

「どうして、一体勝手に動き出すの?」と、牧原は聞いた。

「モンスタースキルでコントロールできるのは、直近に作った三体のみ。それ以外は支配下を外れて、野生化するんだよ」

「野生化したモンスターはどうしたら良いの? 退治しないと迷惑掛けるよね」

「退治するしかないね」と言いながら、霧島は、逃げていった一体を剣の斬撃飛ばしで退治する。

「モンスターの魔法石については、僕よりも適任者がいるから、紹介するよ」


 霧島の案内で、横に長い二階建ての建物、部室棟にやって来る。二人の後を三体の毛玉モンスターが付いて来る。

 二人は二階の一室の前に来ると、霧島はノックをすると「じゃまするよ」と言って中へ入る。

 和装の上に白衣を着ている、魔法少女・大沢がいた。

 部室の中央に大きな机があり、周りには台や棚がいっぱいあり、大きなフィギュアのようなものが、所狭しと飾ってある。

「入って良いとは言ってないぞ」

「どうせ暇だろ」

 霧島は悪びれた様子もなく言った。

 牧原は、所狭しといろいろ置かれている物珍しいので、キョロキョロ見回す。

「そちらの美人は誰だい?」

「ウチの生徒じゃないからな。近所の住民の牧原さんだ」

 霧島が紹介したので、牧原は軽く会釈する。

「中身は、おじさんだからな」と霧島は補足する。

「中身はどうであろうと、今はエロ可愛いだろ」

「え、エロ可愛い」

 牧原は絶句する。

「どうでも良いけど、モンスターのスキルの使い方を教えてあげてよ」

 霧島がそう言うと、大沢は感嘆の声をあげる。

「君もモデラ―の道を進もうとしているのだね。感心感心」

「モデラ―じゃないって」

 霧島がツッコむ。

 牧原は戸惑る。

 大沢は咳払いすると、「まず、ここにモンスターを作るんだ」と言って、テーブルの上を指差す。

 牧原は、自分の後ろを付いて来ていた毛玉モンスターを置く。

 大沢は突然、大きな手斧で毛玉モンスターを真っ二つにする。

 牧原は、残りの二体もテーブルの上に置くと、大沢はその二体も真っ二つにした。

「あの~。なんで殺してしまうのでしょうか?」

 牧原が尋ねる。

 霧島は、呆れている。

「知らないのか? 陶芸家は、失敗作を叩き割ることを。失敗作は叩ききるのだ」

 大沢の言葉に、牧原ドン引きする。

「陶芸家じゃないだろ」と、霧島はツッコむ。

「どっちにしろ、今はモンスターをただ作るしか出来ないだろ。サブスキルが使えるようになるまで、ひたすら作っては壊し、作っては壊しを続けるだけだ」

 牧原は、再び毛玉モンスターを作る。

「ちがーう。ちゃんとしたモンスターを作れないのか!」

「これは、ちゃんとしたモンスターじゃないんですか?」

「ちゃんとしたモンスターとはこういう物を言う」

 そう言うと、大沢は、特撮ヒーロー物の怪人そっくりのモンスターを作る。

「これは細かくてリアルだなぁ」

 牧原は感心する。

「感心していないで作りたまえ」

 牧原は、頑張ってそっくりに作ろうとすると、どことなく変なモンスターしか作れない。大沢は、容赦なく手斧で切り裂く。

 三十分程繰り返したが、ちゃんとした物は作れなかった。

「もう少し簡単なモノから練習したらどうだ?」

 霧島が助け舟を出す。

「プリティモンスターのペケチュウなんてどうでしょう」

 牧原が聞いた。

 プリティモンスターとは、国民的アニメである。人間は一切登場せず、擬人化されたモンスターが登場し、その日常を描いた作品である。プリティモンスター同士で戦ったりはしないので、戦闘向きではない。ただ、アニメに詳しくない人でも、ヌイグルミが作られているので、ピンク色で細長い姿のペケチュウは有名であった。

 大沢は、サンプルでペケチュウを一体作る。牧原はそれを手本にペケチュウ作りをするが、どことなく変な物ができるので、大沢は容赦なくペケチュウモドキを手斧で切り捨てた。

 五分程して、やっと大沢のOKが出る。

「しばらくはちゃんとしたペケチュウを作れる様に練習したまえ」

 大沢は偉そうに言った。

「わかりました。でも、これは何の役に立つんですか?」

 部屋中に牧原が作って、大沢が斬ったモンスターの死体が散らばっていた。さすがに何の為にやっていたのか誰でも知りたくなる状況だ。

「思った通りのモンスターを作り出せる様にする練習だ。そうでないと、いざって言う時、役に立つモンスターがつくれないだろう」

 牧原は納得する。

「この調子で、モンスターを作る練習をしておくと、いずれサブスキルが使えるようになる」

「サブスキル?」

 牧原は疑問形で言った。

「サブスキルも知らないのか?」

「今日初めて魔法少女になったばかりなので」

「例えば、僕は剣の魔法少女だけど、剣を出すのがメインスキルで、斬撃飛ばしがサブスキル。メインスキルをある程度使いこなせるようになると、使えるようになるんだよ」

「なるほど」

 牧原は納得した。

「モンスターの魔法少女のサブスキルには、今分かっている物で、能力付与と感覚共有の二つある。

  当たりのサブスキルは、能力付与であり、君自身が知っている魔法少女の能力を付与できる。ただし、戦闘スキルはあまり役に立たないと思った方が良いだろう」

「大きさが小さいからですか?」

「飲み込みが良いな。その通りだ」

「なるほど」

「もう一つが、感覚共有だが、好みの感覚が共有できるが基本は視覚だろう。偵察に使うためだ」

 牧原は、ウンウンと肯く。

「そこでだ。思った通りの姿のモンスターを作る必要があることが分かるだろ。偵察に使うのに、視覚がないモンスターができたら役に立たない。何かやらせたいのなら、やらせる事に適した体が必要だ」

「なるほど」

 牧原は感心した。

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