霧島は即席で出来たパーティのメンバーの能力が気になった。
霧島は、姿かたちにヒントはないかと、牧原を観察する。しかし、姿からは何のヒントも得られなかった。
「ところで、牧原さんはどんなスキルを持っているの?」
霧島が聞いた。
「スキルって?」
「え。そこから教えないとダメなの! もしかして初心者」
霧島が驚き聞いた。
「うん。魔法石を入手してから多分、十分ぐらいしか経ってない」
「正真正銘の初心者か~」
霧島は、溜息を吐く。
「例えば、僕の場合、剣のスキル。剣を出したりできるスキルだ。牧原さんにも同じような能力があるはずだよ」
「武器を出せるんだ」
「武器を出せるとは限らないけどね。例えば、炎や雷を出したり、盾やヨロイを出したり、何も出せない代わりに、身体能力を強化出来たりと魔法石ごとに異なる能力が使えるようになる。それがスキルと言うんだ」
牧原は、「スキルか~」と言うと考え込む。
「視界が三百六十度全部見えるようになったんだけど、これの事かな?」
牧原がそう言うと、今度は霧島が悩む。
視界が三百六十度見えるスキルなんて聞いたことがないからである。
「三百六十度見えるってどんな感じ?」
霧島が聞いた。
「どんな感じと言われても困るんだけど……」
牧原は、説明の仕方に悩む。
「自分の周りに三百六十度のスクリーンがあって、白黒の映像が映っている感じかなぁ。あ、でも両目で見ている部分はカラーなんだよ。でも目を閉じると、全体が白黒に変わる」
そう言うと、牧原は「うーん」と唸る。
「わかったかな?」
牧原は苦笑いを浮かべて言った。
「な、なんとなく。でも、目で見えている場所だけカラーなんだね。でも、目を閉じても周りが見えているなんて困らない?」
霧島は、悩みながら聞いた。
「今のところ困らないかな。まだ、十分ほどしか経験していないので、わからないけど」
霧島は、牧原の能力がなんの役に立つのか、想像がつかなった。牧原自身がまだ自分の能力を把握していないのも原因でもあるが。
「まあ、とりあえず、スーパーに行こうか」
霧島が言った。
二人が、スーバーへの道のりで途中大通りに沿って歩く必要がある。今はその大通りに向かって歩いている。
「モンスターが現れた」
牧原が言った。
すると、モンスターが横道から現れる。
霧島は、モンスターが、横道から現れる前に牧原が「モンスターが現れた」と言ったように感じた。
「まだ、距離がある。こちらに来るとは限らないぞ」
霧島が五十メートルぐらい先に居るモンスター見ながら言った。
「そうだね。まだ、こちらに気付いていないみたいだし。こっちに来ないかも」
牧原は、モンスターを観察しながら言った。
見えないところにいるモンスターの存在を感じるのに、未来は分からないようだと霧島は判断した。
「でも、このまま歩いて行ったら、モンスターも僕たちに気付くんじゃないかな」
牧原は、続けて言った。
「牧原さんの能力は予知系かもしれないね」
「予知? 僕は未来何て見れないよ」
「未来予知じゃなくて、遠隔予知ね。遠くにある物や隠されている物を発見する能力だよ」
霧島がそう言うと牧原は少し考え込む。
「わからないけど、そうかも」
牧原は、釈然としない感じだったが、同意する。
しかしながら、予知能力ではなかった。牧原の能力は、『超感覚』であった。
五感が非常に通常より鋭くなる能力である。
目を閉じていても、三百六十度全体が見えるのは、聴覚、嗅覚、触覚、第六感が視覚の補助をしているからである。特に牧原は、意識して第六感を使っているわけではないので、自分が何かを認知しているのに第六感が用いられているとは、想像もしていない。
「でも、向こうもこっちに気付いたみたいだよ」
牧原がそう言うと、両手が鎌のモンスターがこちらに向かって歩いて来る。
「仕方ないなあ」
霧島はそう言うと、剣を何もない空間から出すと構え、剣を振る。すると剣から斬撃が飛んでいく。斬撃はモンスターへ命中する。さらに二撃放つとモンスターはあっさり倒れた。
牧原と霧島はモンスターの元へ歩いて行く。
「こいつは、額に石がないんだね」
牧原が言った。
「こいつは元人間じゃないってことさ。ライトピラーからやって来たんだよ」
霧島が言った。
「え! ライトピラーから来たってどうしてわかるの?」
牧原が驚いて聞いた。
「どうしてって、学校の先生から教わった。東京都や国は、ライトピラーからモンスターが発生しているのをしっていて、隠しているしね」
霧島は、事も無げに言った。
「どうして、東京都や国は、都民に秘密にしているのに高校生の君たちに教えたんだい? おかしいじゃないか」
霧島は苦笑する。
「それは、まあ、大人は、国や都が張った非常線を突破して中に入らないけど、高校生は冒険気分で入ってしまうってことがありまして」
霧島はそう言うと、わっはっはと笑う。
そして、数秒後真剣な表情になる。
「それで、僕は魔法少女になって、僕の友人はモンスターになって警察官に拳銃で撃たれて死んだよ」
牧原は絶句する。
「モンスターになった友人は、遺体を親元に帰されることもなく。事故死として処理されたよ。ご両親もモンスターになった遺体なんて返されても困るだろうけどね」
牧原も、さすがにモンスターの遺体を返されて「あなたの子供です」と言われても遺族は納得しないだろうと思った。
焼肉屋のおばちゃんがモンスターになったところを見た自分でさえ、まだ夢の中にいるかのようだし、心の整理は簡単にはできない。
「牧原さん、人が良さそうなので言っておくけど、モンスター化したら相手が親兄弟でも殺さないとダメだよ」
霧島は真剣な顔で言った。
「モンスター化した人間、元人間は、親兄弟親友関係なく殺そうとするから。愛する人に人殺しをさせたいかい?」
牧原は、青い顔をしながら顔を横に振った。
「安心してくれ。僕は親も子供もいない。兄弟はいるけど、東京にはいないよ」
牧原は寂しそうに言った。
「それは、それは、後、心配なのは友達だけだね。池袋の東口以外で、こんなに魔法石が降ってきたり、モンスターが現れるんだから、魔法少女でない一般人が家の外に出るのは危険だ」
「家の中に居ても危険じゃないの? あの鎌で玄関を破壊されたヤバイ家もあるんじゃない?」
霧島は苦笑いする。
「これはどうしてかは分からないんだけど。あのモンスター、元人間のモンスターを除くと、壁を壊したり、扉を壊したりって絶対にしないんだよ。例外として、空を飛ぶモンスターの場合、壁を飛び越えてくることはある。だけど、建物の中にいる場合、扉や窓を開けなければ、入って来れないはずだ」
「空飛ぶモンスターなんているの?」
霧島にとっては斜め上の質問が飛んできた。
「いろんなモンスターがいるよ。剣のモンスターが多いのは事実だけど」
「剣のモンスターって?」
「さっき倒した奴が剣のモンスターだよ」
牧原はなるほどと頷く。
牧原たちは、片道二車線、全四車線の大通りに到着する。
走っている車の数こそ多くなかったが、六十キロが制限速度のところ、明らかにそれを超えるスピードで車が走っていた。
牧原たちは、一応押しボタン式の信号機のボタンを押す。モンスターたちは、信号など気にせず渡ろうとするから、時折走る車に轢かれていた。
信号が変わったので、渡ろうとすると暴走車が赤のまま通過して言った。
「危ないなあ」
牧原が悪態を吐く。
牧原の言う通りなのだが。
モンスターが異常発生しているなか、信号守っているのも律儀と言うべきかもしれない。
ことあと、大通りの歩道を通り、目的のスーパーに到着する。その間、大通りでモンスターが車に轢かれるのを二回ほど目撃したが、結果的に牧原たちは戦闘をしないで済んだ。
三十分後。
牧原と霧島は、スーパーから戻って来る。
牧原は、リュックいっぱいの荷物とエコバック一つを左手に持っている。そして、霧島は、牧原に奢って貰ったお菓子とジュースをレジ袋に入れて持っている。
「それじゃあ、ボディガードはここまで」
霧島は、振り返って言った。
「え。家まで送ってくれないの?」
「家、近いんでしょ。だったら良いじゃん。ヤバかったら学校まで来てよ」
そう言うと、後ろ手に手を振って校門の方へ行ってしまう。
「無責任だな」
牧原は憮然として言った。
『そう言えば、殺された高校生の死体はどこ行ったんだろう?』
死体は、どこかに運ばれていた。
牧原は、自宅の方へ進んでいくと、元焼肉屋のおばちゃんのモンスターの死体が血塗れで倒れていた。
「焼肉屋のおばちゃん。成仏してね」
血まみれの死体を見ていると、額の元魔法石が気になる。
ほんの少しだけど、魔力のような物を感じたからだ。前回、霧島が死体から取ったときのように牧原も取ってみる。すると予想通り、ゲル状の物質になり、悪臭をばら撒いた。
さらに自宅の方へ行くと、中村のおばちゃんの死体が転がっていた。無残な切り傷が付いているのが痛々しかった。
「おばちゃん。成仏してね」
牧原は、そう言うと手を合わせる。
「警察に電話するか」
牧原は、スマホで110番するが、繋がらない。仕方なく、ポケットにスマホをしまう。
本来なら家まで、もう少しである。急いで帰りたいところだが、今は気になることがあった。道端に落ちている石だ。もちろん道だ。アスファルトで舗装されている道なので、石ころが多い訳ではない。しかし、一つや二つあったところで珍しい訳でもないが、牧原には非常に気になった。
牧原は近づいて行って石を見る。オレンジ色の魔法石だった。
牧原は、すべて合点がいった。
自分は魔法少女になり、焼肉屋のおばちゃんはモンスターになったのに、中村のおばちゃんだけ、人間のまま殺されたのか。
中村のおばちゃんは、頭に落ちてきた石を受け取れずに落としたので、魔法少女にもモンスターにもならずにすんだのだと、理解した。
牧原は、一人で二つ目の石を持っても大丈夫なのか? この二つ目の石のせいでモンスターになったりしないのか不安がなかったわけではないが、試しに拾ってみた。
我が身に何も起きず、ホッとする。
ここでやることがなくなった牧原は、自宅へと向かう。
牧原は自宅の玄関をあがり、全身が見える鏡に映った自分を見た。
金粉がついているかの様に所々がキラキラ光る黒髪。白を基調にした金色のラインが入った和装の様な服の魔法少女の姿をしていた。
「か、かわいい」
鏡に映る、超絶美少女に見惚れる。そして、すぐに我に返る。
「僕は、可愛い嫁さんが欲しいのであって、可愛い女の子になりたいわけじゃない」