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第22話 美奈と……?




   美奈お姉さま、ありがとうございました。

   わたくし、幸せになりますわ。

   絶対忘れません。


「うん、幸せになってね。私もエリサを忘れないよ」

 頭に響くエリサの声に私は返事をする。


 目の前に浮かぶモニターのような物には、抱き合うエリサとナインが見えた。

 まるで映画を見ているようだ。

 エリサは眠りながらこんな風に見ていたのかな。


 抱きしめ合うエリサとナインは幸せそうで、これこそ最高のエンディングだと拍手をした。


「よかったねぇ、二人とも幸せになってね。おめでとう!」


 その拍手にもう一つ音が加わった。

 音の方に目をやれば、執事服のカリスが立っていた。


「? あれ? カリス、何でここに居るの?」

「おいおい、こんなところで高みの見物か? いい趣味じゃねぇか」

「カリスはエリサの傍に居なくていいの? 」

「今あそこにいるのは野暮だ」

「確かに!」

「それに、一人で感動のシーンを見るのも味気ないだろ」

「それはそう! 折角だから分かち合おう!」

「ふっ。ああ、美奈はそうでないとな」

 何で笑われたのかは分からないがなんだか遺憾である。


 けれど感動シーンを一人だけで観覧なんて味気ないとは思っていたから丁度いい。



 二人とも想いを伝え合い、幸せそうに笑い合っている。

 全てに絶望していたエリサが喜びに満ちた笑みを浮かべていて、それだけで胸が一杯になった。


「エリサ、幸せそうだね」

「ああ、お前はよくやってくれた」

「うん、自分でもそう思う」


 ナインと抱き合うエリサが、心の中で私に感謝を送ってくれている。

 エリサにもきっとこんな風に伝わっていたんだね。

 私が嬉しく思うこの心もエリサに届いているといいな。

 可愛い可愛い、私の妹……。


「幸せになってね、エリサ……」

「なるさ、お嬢だからな」

「ナインも、おじい様もおばあ様もいるしね」

「ああ、ルーディア領の民もいる」

「エリサの味方はいっぱいいるねぇ、安心だわ」

「そうだな」


 もう私が居なくてもエリサは幸せになれる。

 ……私の役目は本当に終わったんだ。





「はぁ、それにしてもエリサは絵になるわ。素敵、可愛い。美人」

「お嬢だからな、ドレスもよく似合ってる」

「ナインもエリサの魅力を良く分かっていよね!」

「……美奈も似合ってるぞ」

「は!? 私!? いやいや、どう見てもドレスに着られてるでしょ!」

 エリサが着ると神々しいほどに似合っている豪華なドレスだが、私はどう見てもドレスに着られている。

 カリスは上から下までじっくり私を見て柔らかく微笑んだ。

「美奈は赤も合うな。背が高いからそういう型のドレスが映える。綺麗だ、本当によく似合ってる」

「いや、うん、もういいです。アリガトウゴザイマス……」

 すらすらと真顔で褒めてくれるから恥ずかしくなり、カリスの口を手で塞いだ。

「何だ、まだ褒め足りないぞ」

「もういいってば! それにしてもこんな豪華なドレス、結婚式の花嫁になっても着られないよ。そもそも結婚できるか分かんないし、最初で最後だわ。折角だし堪能しとこう」

「またそういうのが着たいなら俺が美奈にドレスを送ってやるよ。それを着て結婚式をしたらいい」

 話題をドレスに逸らしてみたのにこの聖獣、サービス精神の塊か! 最後だからって過剰サービスが過ぎる。

 でも、悪い気はしない。

「やだもー、カリス優しい。その時はよろしく!」

「任せとけ」


 カリスがおどけた様に胸を叩く。

 うむ、最後までリップサービスのいい聖獣さんだ。ありがとう。


 それから二人で画面に映るナインとエリサの様子に見入った。


 エリサが作った空間はもう半分ほど消えかけていて、ここの消滅と同時に私は消える。なぜか私にはそれが理解できた。

 消滅なのか、元の世界に戻れるのかは分からない。

 もうこの世界にはいられない。そしてエリサとは二度と会えない。 


 終わりの時が近い。


 でも、覚悟は出来てる。



「ねぇ、カリス。ここに居たら消えちゃうし、もう戻っていいよ?」

 いくらエリサの聖獣とはいえ、空間の消滅に耐えられると思えない。

「一人で消えるのも寂しいだろ、付き合う」

「ええ、いいよ。何で!?」

「何でって、一人くらい美奈に寄り添う奴が居てもいいだろ」

「カリスはエリサの聖獣なんでしょ? エリサの傍に居ないと……」

「お嬢はもう俺が居なくても大丈夫だ。それに俺はお前の傍がいい。嫌か?」

 カリスが私の手を取った。


 その愁いを帯びたお綺麗な顔で覗き込まないで欲しい。

 嫌なワケがないんだけど?


「俺は、美奈の傍に居たい」

 カリスは取った私の手の指先にキスをする。

 その仕草に胸の鼓動が止まらない。

「美奈の傍がいい」

 真っ直ぐそう言われて、私の心臓が今までで一番大きく跳ねた。


 カリスは本気で私と一緒に居てくれるつもりなんだ。


 傍に居たいと願ってくれるカリスに、申し訳ないより嬉しいの方が勝ってしまった。


 ……私、カリスが好きなんだ。


 でも、今自覚してもどうしようもない。

 私たちはもうすぐ消えてしまう。


 この想いを告げても未来はない。


 ときめく鼓動をなんとか落ち着かせて、呆れたような笑みを作った。

「物好きねぇ」

「そういうのが一人くらいいてもいいんじゃないか? 俺、お前にドレス送るって約束したし」

「本気なんだ?」

「約束は守るさ」

「律儀ね」

「聖獣は嘘を吐けないんだ。それに美奈は噓つきは嫌いだろ?」

「嫌いだけど、リップサービスだけでも十分嬉しかったよ?」

「リップサービスじゃない」


 カリスは握っていた手を引いて私を抱きしめた。



「美奈。俺、お前が好きだ」

「……!」


 破天荒で、前向きで、愛情深くて、優しくて……。

 いつも他人の為に一生懸命。

 そんな姿を見ていたら、いつの間にか目を離せなくなっていた。

 カリスが真摯な目で私に想いを告げてくれる。


「だから最後まで傍に居させてくれ」

「……うん」


 私もカリスが好きだ。

 けれどそれを言ってしまったら消えることを悔いてしまいそうで、私は想いを伝える言葉を飲み込んだ。


 その会話を最後にどちらも喋らなくなった。


 徐々に空間が崩れていき、互いの姿が薄くなっても握った手を放さない。


 そしてついに何も残さず消え去った……。







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