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第8話 新しい家






 翌朝には領地に入り、昼には屋敷に到着した。

 祖父母は随分前から到着を待ってくれていたようで、抱きしめてくれた体は少し冷たかった。

 冬に入ろうかというこの季節、外で待つのは寒かっただろう。

 けれど、心遣いをとても嬉しく感じる。

 寒かったでしょうとすぐに中へ案内してくれた。

 ここでもカリスは魔法を使い、エリサの従者として一緒に迎え入れて貰った。

 屋敷のメイドも騎士も祖父母ですら、カリスを昔からの従者だと認識している。

 聖獣の魔法凄い!

 クロイド家の馬車と護衛はエリサを置いて名残惜し気に帰って行った。皆口々にエリサとの別れを惜しみ、これからの幸せを願ってくれた。

 道中話す機会があった御者は穏やかな老人で、屋敷に帰ったら引退する予定だと言っていた。最後にエリサを運べたことを嬉しく思うと皺くちゃの顔で優しく笑った。


「さぁ、遠いところからよく来たわね。疲れてない?」

「欲しいものがあったらすぐ言うんだよ? 自分の家と思って寛いでいいからね」

「はい、おじい様、おばあ様」

「部屋は昔のまま残しておいたから。家具やカーテンなんかは交換したけれど、気に入ってくれるかしら?」

「誕生日の贈り物も、エリサは気に入らなかったと開封して送り返されてきたけれど……」

「え!? わたくしそのようなことはしておりません……!」


 エリサに誕生日を祝って貰った記憶はない。まして贈り物を貰った事もない。

 それはきっと父か義母がエリサの手に渡る前に送り返してしまったんだろう。

 開封したのは、中身を確認して自分たちが気に入ったらそのまま懐に入れるためだ。


「大丈夫よ、分かっているわ」

「我々で何とかしてあげたかったんだけれど、王子の婚約者という立場の君をどうにかできるほど力が無くてね」

 祖父母は不審に思いクロイド家を調べてエリサの現状を知った。けれど救い出す事は出来なかった。

「ごめんなさいね」

「すまない」

 エリサに向かって何度も頭を下げる。

「! おじい様、おばあ様! お顔を上げてくださいませ。そのような気持ちで居てくださったことが分かっただけでもわたくし幸せでございます!」

「過去に二度遊びに来てくれた時に、私たちが用意した贈り物を全て渡して持たせてあげたかったけれど……」

「持って帰ると取り上げられてしまうと悲し気に言っていただろう? あの顔が忘れられなくてね」

「エリサの手元には届いていないかもしれない事に気付いて、それ以来送るのは控えることにしたの」

「お気にかけて頂けていた事だけで十分嬉しゅうございます」

 祖父母は会えない間もエリサを思っていてくれた。それが嬉しい。


 父はエリサが子供らしい行動をとることを許さなかった。

 マリナに与えられる可愛らしいぬいぐるみ、子供っぽいフリルやリボンがたくさんついた服。

 人形や小物に至るまで子供らしい品物は一切禁止で、送られた物だってすぐ取り上げられて気付いたらマリナの物になっていた。


 過去にルーディアを訪れた時に祖父母は可愛らしいふわふわのぬいぐるみをエリサに買ってくれた。

 エリサはそれをとても気に入ったけれど、クロイド家に持ち帰ることはしなかった。

 その時に理由を聞かれて父の事を言った記憶がある。


「もしかしたら、いつかエリサがまたここに来てくれるんじゃないかって」

「毎年誕生日に贈り物を買ってこの部屋に置いてあるんだ」

 ドアを開いて促された部屋は暖かさに溢れていた。薄い落ち着いた緑色で統一された室内は差し色に薄紅色の装飾が施されている。

 部屋は埃一つなく、頻繁に手入れと管理されているのが一目で分かった。

 ベッドやソファ、テーブルや机は一目で高級品という事が分かる。

 テーブルやソファには可愛らしいぬいぐるみが並べられ、机や化粧台の上にもたくさんの品物が置かれていた。

「いつ来てもいいように整えておいたの。どうかしら?」

「! ありがとうございます。たくさんの物が増えていて……。とても素敵で、ここをわたくしが使っていいのですか?」

「エリサ、君の部屋だ。贈り物も見ておくれ。気に入るといいんだが」

 促されて一緒に部屋へ入る。

 三歳までは母が受け取ってくれていた贈り物だが、母の死と同時に荷物を勝手に処分されてしまいクロイド家には残って居ない。

 送れなかったけれど買っておいたのだと、プレゼントを一つ一つ紹介してくれた。

「これはね、領地の職人に頼んで作ってもらった人形なの」

「着せ替えて遊べる。洋服や小物もあるんだ」

「まぁ、可愛らしい」

「これは馬のぬいぐるみ。手触りにこだわったんだ」

「たてがみや尻尾を編むことも出来るのよ」

「ふかふかですのね」

「これはオルゴール。この領に伝わる歌が入っているの」

「いい音色ですわ」

「こっちは宝石箱。そろそろアクセサリーに興味が出る頃だろうと思ってね。中に入っているのもエリサに似合いそうだって思って二人で選んだよ」

「気に入るかしら?」

 シンプルだけど重厚なデザインで上蓋と側面にしっかりと大き目の宝石が埋め込まれている。

 中を開けばエリサの瞳に合わせた緑色の石がメインの様々なネックレスやイヤリングが入っていた。

「それに、クローゼットにはエリサに似合いそうな服を入れておいた。気に入ったものがあれば着なさい」

「自由に選んでね」

 クローゼットを開くと日常着からドレスまでずらりと並んでいた。

「まぁ、まぁ、まぁ! どれも素敵ですこと!」

 全てエリサに似合いそうだ。

 彼女を思って選ばれた品々なのが一目で分かる。


 クロイド家では家の品格を落とさない服しか選んでこなかった。流行り廃りは選ぶ基準の参考にすれどそこにエリサの好みは反映されない。



 そしてベッドに近寄って中を覗くと、そこには枕のすぐ隣にエリサが気に入ったあのふわふわのぬいぐるみが置かれていた。

「その子は気に入ってくれていただろう?」

「いつかまたあなたが来た時の為にそこに居て貰ったの」


 懐かしく温かい、ここで過ごした幸せな記憶が胸に蘇る。



「おじいさま、おばあさま……。嬉しゅうございます……」


 胸の奥から湧き上がる熱い歓喜と感動はエリサの物だ。

 エリサは私を通して世界を見ているんだ。

 温かい気持ちは溢れて止まらない。

 その想いは涙になって零れ落ちる。


「もうしわけ、ございませ……っ。涙が……っ、勝手に……」


 エリサが嬉しくて泣いている。


 あなたをこんなにも愛してくれている人たちがいるよ。よかったね。


「いいのよ。エリサ」

「心のまま振る舞いなさい。ここでは自由に過ごしていいんだ」

「……はい」


 涙が止まるまで抱きしめてくれた二人は、ようやく泣き止んだエリサに温かい風呂を用意してくれた。


 服を脱がせてくれたメイドは落ち着いた頃また伺いますと浴室を出て行った。


 用意してくれた湯船にゆっくり浸かる。


「はぁ、気持ちいい」

 花びらを散らしたいい香りのするお湯なんて初めてだ。これって生の薔薇? 冬なのに凄い。凄く贅沢な香りがする。

 何度か手で掬って匂いを嗅いでしまった。

「はぁ……それにしても凄く泣いちゃった……」

 両手で掬った温かいお湯を顔に掛ける。


 エリサが泣いたのは一体いつぶりだろうか、記憶を探っても中々思い当たらない。

 領域で会った時は泣いていたが、実体に戻っても涙は出ていなかったからあれはノーカウントだわ。

 それにしてもたくさん泣いたせいか胸の奥が幾分すっきりしている。

 涙には浄化作用があるって本当ねぇ。


 ゆったりと温かい湯に浸かり気持ちが落ち着いた頃、メイドが中に入って来て体や髪を洗ってくれる。


 風呂を出た後は冷えた果実水を飲みながらオイルマッサージ。

 余りに気持ちよくて眠ってしまった。

 メイドさん滅茶苦茶上手い。


 起きた時には全身つるぴかの肌や髪に感動した。

 正直やつれていても圧倒的な美貌を誇っていたが、丁寧に磨かれたエリサの美しさはその比ではなかった。

 おばあさまが選んでくれたという動きやすいドレスに袖を通す。コルセットは勿論必要ない。そもそもエリサの体は細くて美しい体形でコルセットが無くても十分見栄えがいい。

 上品な薄紅色のドレスは落ち着いたデザインだが、ところどこに可愛らしいレースがあしらわれており、エリサの年相応の可愛らしさが引き立っていた。



「あらまぁ、可愛らしいこと。ほら、私の見立ては完璧でしたでしょう?」

「本当にそうだね。お姫様のようだ、エリサ。今度は僕が選んだものを着て欲しい」

 通された食堂で待っていた祖父母は磨かれたエリサを見て嬉しそうに頬を緩ませた。

「わたくしこの服がとても気に入りました。おじい様が選んでくださった服も今度是非着たいです」

 お礼を言うと二人はさらに表情を綻ばせ、テーブルに誘ってくれる。

「さぁ、お腹が空いたでしょう? 一緒に食べましょう」

「何が好きかわからなくて、色々な物を少しずつ用意して貰ったよ。好きなだけ食べていいからね」

「こんなにたくさん……」

 小皿の上に可愛らしく盛られた様々な種類の料理。これだけたくさんの種類、きっと作るのも大変だっただろう。

「料理長が張り切りすぎてしまったのよ。ごめんなさいね」

「適度にとは言ったんだがな」

 いつの間にか後ろにいたカリスが丁寧な仕草で椅子を引いてくれる。

「ありがとうございます。料理長にも後でお礼を言いとうございます」

「それはいいわね」

「食べ終わってから感想を添えてやるといい」

「はい」

 祖父母の対面に座るとワインが注がれる。

「それではいただきましょうか」

 祖母の言葉で乾杯をして夕食が始まった。

 懐石料理のように美しく大きな皿に盛られた様々な料理はそれだけで一枚の芸術のようだ。

 一つ一つ丁寧でどれもとても凝っている。

 どれほどの労力をかけてこれを作ってくれたのかと思うと、それだけで感謝の念が尽きない。

 ナイフとフォークを手に取る。

 マナーなんて全く知らないのに、エリサの体はすいすいと美しい所作で小さなステーキをさらに小さく切って口に運んだ。

 柔らかい肉と丁寧に焼かれて閉じ込められた肉汁が口いっぱいに広がる。香ばしい香りが鼻を擽りソースの味がその後を追いかけていく。

「……おいしいですわ」

 お世辞でもなく言葉が勝手に零れた。

 次は色とりどりの炒めた野菜にソースを絡めたものをフォークで掬って口に入れる。

「これもとてもおいしいです」

 シャキシャキとした歯ごたえのいい仄かに甘い野菜は、さっぱりとしたソースがよく合っていた。

「次は……これにしようかしら」

 小さなトマトとチーズを交互に挟んでハーブを散らしたものにオイルがかかっている。

 フォークで崩れないようにトマトとチーズを一緒に刺して一口で食べた。

 なんだっかな、カプレーゼ? この世界にもあるんだ。

 けれどとても同じ物とは思えなかった。チーズの味の濃さやトマトの甘さが桁違いだ。

「はぁ……どれもおいしゅうございます。次はどれを食べようか目移りしてしまいますわね」

「おいしそうに食べてくれて嬉しいよ」

「気になったものからどうぞ」

 祖父母はそんなエリサの食事を微笑ましそうに見つめている。

 温かい食事と楽しい会話。

 こんな素敵な晩餐は初めてかもしれない。

 雰囲気に流されエリサは小さな胃袋に限界まで食べ物を詰め込んだ。

 だって、エリサが凄く幸せそうだったから食べるのをやめられなかったのよ。

 流石に限界が来てようやくフォークを置いた。

 二人はとっくに食べ終わって、エリサが食べ終わるのを待っていてくれた。

「どれが気に入ったのかな?」

 随分時間をかけてたくさん食べたというのに、エリサの前にある皿にはまだたくさんの料理が残されていた。

「このチキンのソテー、甘い味付けが気に入りましたわ。サラダはこの鮮やかなもの。こちらのテリーヌもとてもおいしゅうございました。なんのテリーヌですの?」

「それは鴨ね」

「鴨ですのね。わたくし、初めて食べましたわ」


 もしかしたら今までの晩餐会で口にしたことはあったかもしれない。

 けれどエリサは味は分かるもののそれをおいしいと感じ、味わう余裕はなかった。

 そういえば食事を楽しんだのはいつぶりだろうか。


「どうしましょう。まだたくさん残っておりますのにもうお腹がいっぱいですわ……」

 残ってしまった料理もおいしそうで、名残惜し気な声が出てしまった。

「申し訳ございません。わたくしったらはしたない」

「ふふふ、いいのよ。流石に今日は多すぎたわ。こちらこそごめんなさいね。残しても大丈夫よ」

「とてもおいしそうですのに、本当に申し訳ないですわ」

 残念そうに眉を下げるエリサに、祖父母は笑顔のまま首を横に振った。


「毎日少しずつ食べてエリサが好きな物を教えて頂戴」

「わたくし、自分の好みの物もわからなくて……。情けないです」


 何が好きなのかと聞かれた時、エリサは答えられず口籠ってしまった。

 祖父母はすぐに話題を変えてくれたけれど、それが料理長に伝わってしまったんだろう。


「貴女の好きを一緒に探せるなんてとても贅沢ね」

「ああ、嬉しいね。僕らにもエリサにしてあげられることがまだたくさんあるんだ」

「ありがとうございます。お心遣い嬉しゅうございます」


 食べ物の好みなんて今まで聞いてくれる人がいなかったから考えた事もなかった。

 食事は腹を満たすための道具でしかない。

 楽しくておいしい食事というものを今日初めて味わったが、とても幸せだった。

 これからは食事が好きになりそう。そんな予感がする。


 エリサがそんな思いを抱いているのが分かる。


 うん、そうだね。大好きな家族とのご飯は何物にも代えがたいほど幸せだよね。


 エリサが感じている幸福を一緒に噛みしめる。


「これから毎日僕らと食事をしよう」

「貴女に何を食べさせようか考える楽しみが増えたわ」

 デザートはまだ入るだろうかと聞かれ、分からないと答えたのだけれど。

 目の前に出て来た見た目も鮮やかなデザートたちに食欲が再び湧き上がる。


 今度は小さな皿にスプーン一匙程度の量で五種類。

 小さなプリン、ケーキ、フィナンシェ、ゼリーとロールケーキ。

 小さくても味は確かでどれも絶品だった。

 味わいながらゆっくり全部食べ終わると、たったそれだけの事なのに凄く褒められてエリサだけでなく私まで嬉しくなった。



 とても温かい人たちだ。エリサをここに連れてくることが出来て本当によかった。

 ここならエリサは安心して暮らせるはずだ。


 部屋に戻るとメイドがドレスを脱ぐのを手伝ってくれて寝巻に着替えさせてくれた。

 しばらくしたらカリスがやってきて白梟の姿に戻り、ベッドのフットボードに留まった。

「ふぅ、お腹いっぱい。カリスはご飯食べた?」

「ああ、使用人たちと食った。いろんな種類があってみんな喜んでたぞ」

「ふふふ、エリサの為にたくさんの作ってくれてたねぇ」

 数種類の寝巻の中から若草色の物を選んで着た。通気性も良く肌触りが最高にいい。

 おじい様とおばあ様がエリサを想って選んでくれた物はどれも最高級品で、二人のエリサへの愛情が強く伝わってくる。

「カリスはご飯、どれが気に入った?」

「俺は牛のステーキ」

「あははは、カリスっぽい」

「お嬢は何が好きだって?」

「甘しょっぱい味のチキンステーキかな。お肉は鶏肉が、野菜は満遍なく好きみたい。お肉より野菜をいっぱい食べてた。あとチーズも好きかな。まだ食べてない物があるからわかんないけど今のところはそんな感じ」

「了解、覚えとく。ところでミナは何が好きなんだ?」

 そんなことを聞かれると思ってなくて少し驚いてしまった。

「私? んー……叔父さんが作ってくれたクリームシチューかな」

「クリームシチューか」

「この世界にもあるかな」

「どうだろう? あってもお前が知ってる味とは違う気がする」

「だよね」

 ホワイトソースから手作りしてくれた叔父さんのクリームシチュー。

 どんなに食欲のない時でもそれだけは食べられた美奈の大好物。


 例え見た目が似たようなあってもそれは叔父さんが作ったものじゃない。あれは世界でただ一人しか作れない物だから。


 教えて貰って作ったのに同じ味にならなくて落ち込む美奈に叔父さんは、入っている愛情の差だなんて笑っていたのを思い出すと胸に込み上げて来るものがある。


「……はぁ」

 それを覆い隠す様に大きく息を吐いた。


 エリサの長い髪を傷めないようにゆるく編んでベッドに腰かける。

 ふかふかの高級なベッド。

 枕元に並べられた可愛いぬいぐるみ。その中でエリサが気に入った物を手に取り撫でていると微笑ましい気持ちになる。


「ここが、今日からエリサの家になるんだねぇ」

 あの冷たいクロイド家の居心地の悪い部屋とは違う。

 エリサの為だけに誂えられた、安らげる優しい空間。


 ベッドに横になり目を閉じる。

 なんて落ち着く部屋なの。

 横になっただけで体の力が抜けていく。

 もう頑張らなくてもいいんだ。

 休んでいいんだ。

 ここにはエリサを脅かす者は何もない。

 体の芯から力を抜いて目を閉じた。




 その瞬間、手の中に鍵が現れ深層部屋に引っ張り込まれる。

 ミナの体にエリサが着ていた寝巻は違和感があるけれど、今はそれどころではない。


 南京錠の一つが光り輝いている。


「え、南京錠が!?」


 それを見て慌てて駆け寄った。



「やったぞ、ミナ。解除だ!」

 カリスも引き込まれたのかいつの間にか隣に居て一緒に南京錠を見上げていた。

 家の形をした南京錠に零れた光が鍵を模り刺し込まれる。

 澄んだ音がして南京錠が開錠され砕け散った。

 繋がってた鎖に光が連鎖していき壊れて崩れ落ちていく。


「凄い、連鎖してる」

「繭の一部の鎖が砕けるぞ」


 澄んだ音を立てて繭を包んでいた鎖の一部が無くなり、繭は一回り小さくなって家の形をしていた南京錠が嵌っていた魔法陣の壁に罅が入った。


「壊れたのは家の南京錠?」

「家……、安心と安全?」

「エリサはあそこで心の底から安らげたのかな」

「多分そうだ。祖父母の存在も大きいが、この土地は元々巫女の一族が暮らしていた場所だ。神の力が衰えたとはいえ加護はまだ残ってる」

 辺境伯の力も大きく、あの領地はルーディア領を守る意思が強い。例えここにエリサが居ると分かっても簡単に連れ戻すことなど出来ない。

 そもそもあの二人が簡単にエリサを渡すわけがない。


「そっかぁ、エリサ。ここなら安心できるんだね。よかった」

 壁越しに鎖の繭に包まれたエリサを撫でる。


「一つずつ、貴方がしたかった事をしてみようと思う。待っててね」


 少し小さくなった鎖の繭を見つめ、決意を固めた。



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