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18.VS.いじめっ子(下)


 とにもかくにも朝食である。

 コーヒーのおかわりを取りに行った後、ユディはもう一度ならんで自分の朝食を手に入れた。


 オセロはまだ食堂に留まっていた。

 食事が済んだらまたどこかに行くと思っていたが、黙って座っている。

 あくびを噛み殺しながら行き交う生徒をながめていた。


 少し迷って、ユディは向かいに腰を下ろした。

 緊張しながらパンをちぎり、スープをすする。

 何も話さないのも気づまりなので、一回話を振ってみることにした。


「……あの」


 オセロはすぐにこっちを向いた。


「私、呼応の呪文ってちゃんと使えてた? 朝にあなたを呼んだんだけど」


 オセロは、ああ、と目線を上にやって、コーヒーをすすった。


「なんか呼ばれてるのは分かっていたけど、無視した。

 あの部屋にいて危険なんてあるわけないし」


 契約獣は、危険があるかどうかに関わらず主人に呼ばれたら来るものだが。

 オセロの場合は行く行かないの判断も彼自身に委ねられるらしい。

 どこまでも自由だった。


「もう一つ聞いていい?」

「俺はおまえに話すなと言った覚えはないぞ」


「オセロは実際、どのくらい強いの?」

「幻界最強」


 ユディは口に入れたスープをゆっくり飲みこんだ。

 たぶん自分の質問の仕方が悪かったのだと反省し、具体例を交える。


「幻獣には下位、中位、上位、王獣、神獣ってクラスが五つあってね。

 オセロは炎竜だから上位であることは確実なんだけど、竜族最強なら王獣になるんだ。

 竜族の中で強い個体っていうと、ニーズヘッグとかリヴァイアサンとかヒュドラなんだけど、それより強いの?」


「幻界最強」


 さっきと同じ答えが返ってきた。

 ユディは辛抱強く質問を重ねる。


「王獣クラスには、天使セラフィムとか悪魔ルシフェルとか巨狼フェンリルとかがいるんだけど、そういうのとも互角に戦えるの?」


「だから、幻界最強だっつってんだろ」


 オセロは苛々とコーヒースプーンを噛んだ。


「一応聞くけど。おまえらが神獣っていってるやつらって、どいつだよ」


「魔神アシュラムとか、聖樹ゼフィーロとか、虚鯨きょげいモーヴとか、空中要塞ル・ラドラとか、妖虫壺蟲こちゅうとか――」


「やっぱ俺が最強で間違いねえわ」


 ユディは断言するオセロの正気を疑った。


 神獣クラスは歴史書に登場するような伝説的な存在である。

 国の命運をも左右するな強大な力を持ち合わせた幻獣たちだ。

 それよりも強いといったら途方もない強さになる。


(竜はみんな強気でうぬぼれ屋って聞くけど、本当なんだなあ)


 ユディは祖父の使っていた翼竜のことを思い出した。


 翼竜は俊敏だが攻撃力が低く、中位クラスに分類されている。

 だが、それを本人の聞えるところで言ったり、侮った態度を取ることは厳禁だった。

 翼竜自身は、自分は上位の炎竜や水竜に引けを取らないと思っているからだ。

 機嫌を損ねると背から振り落とされるぞ、と祖父に脅された覚えがある。


 同じく中位クラスの地竜のワームでも似たような話を聞いたので、竜族の自己評価というのは差し引いて聞いておくのが吉だ。


「おまえ、信じてないだろ」


「そ、そんなことないよ。びっくりしてただけ。

 すごいんだね。さっきの魔法もすごかったし」


 ご機嫌ナナメになられると大変なので、ユディはオセロを持ち上げた。

 予鈴を聞いて、急いで残りの朝食を平らげる。

 話しているうちに思ったより時間が経っていた。


 トレイを返却口に返しながら、こんなにゆっくり食事をしたのは久しぶりだと気付く。

 いつも一人だったので食事が味気なく、すぐに終わらせていたのだ。


「じゃーな、ひよっこ。

 呼ばれたら、危なそうなときと、おもしろそうなときはちゃんと行ってやるから安心しろ」


「後者の時は絶対呼ばない」


 オセロはまたどこかに去って行った。

 あくびをしていたので二度寝かもしれない。

 竜は良く寝ると『月刊・召喚ライフ』の竜使いインタビューに書いてあった。


(……ひょっとして食べ終わるの待っててくれたのかな)


 思えば、ユディが席に着く前もあくびを噛み殺していた。


 心がほんのり温まったが、ユディは即座に首を左右に振った。


 契約しなければ殺すと脅してくるような幻獣だ。

 自分を召使か奴隷と思っている輩だ。

 そんな甘くぬるい発想をしてはいけない。


 ユディは気を引き締めると、自分のロッカーから教本と筆記具を取り出し、教室へ急いだ。

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