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16.VS.教師(下)

 カラハ先生の表情が一変した。

 やっとオセロの足元にある魔法陣の輝きが目に入る。


「ミス=ハートマン。もう一度聞きますが、本当に? あのオセロ?」

「そのオセロです」


「彼はだれとも契約しないはずでは?」

「私もそう聞いていました」


 包囲網が一歩分ゆるんだが、退くには遅かった。

 全員が中央塔周りの小塔や棟に張りつけられる。

 オセロのしわざだ。手足をバタつかせて騒ぐ教師たちに言い聞かせる。


「小うるさいやつらだな。俺の気が済むまでそうしてろ」


 飛翔の魔法が使えないユディは、廊下に飛び出した。

 役に立たないことは分かっているが、オセロの召喚主である以上、何もしないではいられない。

 全速力で階段を駆け上がる。


 最上階で内階段は途切れ、屋上へは外階段かハシゴを使うようになっていた。

 迷わず最短距離のハシゴを選ぶ。

 高さに足がすくみそうなので、ひたすら上だけを見た。


「さーて、邪魔者もいなくなったし。思う存分、やるか」

「ダメ―――――ッ!」


 屋上が見えると、ユディは大声で叫んだ。

 胸壁を乗り越えようとして、思わず手を放す。

 さっきのオセロの魔法のせいで、胸壁が熱された鉄板のように熱い。

 予想しなかった痛みに足が滑った。


「きゃああああああ――っ!」


 みるみる空が遠ざかる。

 動けない教師たちからも悲鳴が上がった。

 近づいてくる地面に恐怖した瞬間、腕をつかまれた。


「スカイダイビングもいいよな」


 のんきにいうのはオセロだ。

 ユディを捕まえると背に羽を生やし、落下の速度を和らげる。


「もう一回やるか?」

「……結構です」


 五体満足で校庭に降り立ったユディは、青い顔で断固拒否した。

 オセロははるか遠くになった結界を仰ぐ。

 頭のうしろに手をやり、軽く息を吐いた。


「ま、今日のお遊びはこのくらいにしとくか」


 オセロは指を一つ鳴らした。

 教師たちの身が一斉に自由になった。

 地面に降り立ったカラハ先生が、ユディへ駆け寄った。


「ケガはありませんか!?」

「大丈夫です」


 オセロの姿はすでにその場にない。

 カラハ先生に続いて駆け寄ってきた教師たちが、同情からユディの肩や背を叩く。


「死ぬなよ」

「あいつに逆らうんじゃないぞ」

「とにかく生き延びなさいね」


 とても心のこもった、とても元気の出る励ましに、ユディは泣きたくなった。

 平和なはずの学園生活がサバイバル生活に早変わりしている。


「カラハ先生、私、一生このままなんですか……?」


「まさか。私たちも諦めたわけではありませんよ。

 召喚士協会に報告して対策を練ります。

 暴竜と契約を解除する方法を探しますから、気を確かにね」


 見捨てられたわけではないと知って、ユディの顔色が少し回復した。

 カラハ先生は口の前に人差し指を立てる。


「あれが暴竜だということは秘密に。

 あくまでただの竜だということにしてください。

 生徒たちに知られると、学園中が大騒ぎになりますから」


 空はすっかり明るくなり、寮生たちが起き出していた。

 異変を察知し、寮の窓から外の様子をうかがっている。


「今朝のことは結界の誤作動か何か、適当な理由をつけて片づけます。

 あなたもそのつもりで」


「分かりました」


「まさか暴竜オセロだったなんて。

 ……我が校はじまって以来の珍事、いえ、世間にとっても前代未聞の大事です」


 カラハ先生だけでなく教師全員が頭を抱えた。

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