「敵を探して!」
カラハ先生は外に契約獣である金鵄を放った。
続いて壁の大鏡に向かって、呪文と共に杖を振る。
金鵄の見ている景色なのだろう、学園の景色が映し出される。
映像は六つの小塔を一巡りした後、中央塔の上部へと移った。
黒髪の少年が胸壁に囲まれた屋上で、学園をフタする薄い膜――結界を見上げている。
足元には魔法陣が展開され、犯人がだれかを端的に示していた。
「俺のために強化しているみたいだから、期待に応えて壊してやらないとな」
「やーめーてーえーっ!」
ユディは鏡に貼りつき、物騒なことをつぶやくオセロをバンバンと叩いた。
映像なので意味はないが。
「ミス=ハートマン。あなたはこの部屋から出ないようにね」
「先生、気を付けてください。あの竜は」
オセロです、と伝えるより前に、カラハ先生は宙に飛び立ってしまった。
他の部屋からも先生たちが魔法を使って次々と外へ飛び出していく。
鏡にオセロを取り囲む教師たちの姿が映った。
カラハ先生がオセロに杖を突きつける。
「そこの竜。よくもうちの生徒を脅してくれましたね。
契約しなければ、幻界で悪評を広めるですって?
バカを言っていないで、契約を解除して幻界へお帰りなさい。
さもなくば召喚士の間にあなたの悪評を広めて、二度と召喚されないようにしますよ」
実力行使に出る前に、カラハ先生はまずは説得を試みた。
オセロは鼻で笑う。
「どうぞご自由に。すでにさんざん悪評が立っているからな。今さら痛くもかゆくもない」
「いうことを聞かないのなら、手荒な方法で帰って頂きます」
カラハ先生が身構える。
他の教師たちもカラハ先生の言葉によって現状を把握し、すでに臨戦態勢だった。
総勢約十五名。
回復士や道具士といった戦闘向きでない教師もいるが、上位幻獣でもあっという間に決着がつくだろうという状況だ。
しかし、オセロは意に介さない。
「背中を攻撃してくれ。ちょうどかゆいんだ」
背中を指して余裕ある態度を取る。
舐め腐った態度に、カラハ先生の額に青筋が立った。他の教師たちにも。
「はったりはおよしなさい。
あなたには私たち全員を相手にする力なんて残っていない。
さっき、この学園の結界を破ろうとしたときに大量に魔力を消費しているでしょうからね」
オセロの足元にある魔法陣が力強く光った。
目線は結界に向いている。
もう一度攻撃する気だと知って、カラハ先生の表情が一瞬険しくなった。
「なるほど。さっきのは本気でなかったのですね」
「今度は一・五割増しで試していいか?」
「ぜひ。全力でどうぞ」
魔力を出し切ってもらえた方がカラハ先生たちにとっては有利だ。
魔法陣が輝きを増すほどに、教師たちは余裕の構えになった。
ユディは鏡の前でハラハラと成り行きを見守る。
オセロの能力は上位クラスであることは確実と言われているが、正確なところは不明だ。
もし王獣クラスならばこの結界を一人で破れるかもしれない。
オセロの魔法が発動する。
赤を通り越した白い火柱が上がり、結界が削れる。
ビシ、と小塔から不穏な音がして、教師たちの顔に緊張が走った。
「気は済みましたか?」
結界が壊れる前に火柱は消えた。
カラハ先生は戦闘用の幻獣を呼び出した。
魔剣士は武器を構え、魔導士は魔法陣を展開し、回復士は全員に防護魔法をかけ、道具士は試作の兵器を取り出す。
「まだだな。次は二倍を試す」
「次の機会にどうぞ」
カラハ先生はたわごとと決めつけたが、ユディは本気と取った。
オセロの足元で魔法陣がさっきよりも強く光っている。
こけおどしなどではなくオセロは本当にまだ余力があるのだ。
魔法陣の輝きは、術に使われる魔力量と威力に比例する。
学園の結界を揺るがすほどの魔法を三度も使えることは尋常でない。
暴竜の能力は上位クラスでなく、どうやら王獣以上らしい。
「先生、戦うのは止めてください! それはただの竜じゃないんです!」
ユディは窓から顔を出し、大声で叫んだ。
「オセロです! 名前はオセロ! 暴竜オセロです!」