年のころはユディと同じくらい。男の子だ。
顔立ちが整っているのと、金目に白髪、白肌という薄い体色のせいで、薄幸の美少年といった形容がぴったりの外見だ。
「すごい! シロは変化の魔法が使えるんだね!」
ユディはシロに抱き着いて大喜びし、父親に仲の良さをアピールする。
「幻獣がヒトの姿になってくれるのは、好きっていう気持ちの表れなんでしょ?
これはシロも私のこと好きってことだよね。ね? お父さん」
「基本はそうだけど、騙すためっていうのもいるからなあ……君、種族は?」
シロは返事をしない。かすかに首を傾げる。
前髪がさらりと流れるさまには、思わず守りたくなるような儚さが漂っていた。
「しゃべれはしないのかな? 人語が分からないのかな?」
「変化魔法を使えるくらいだから、知能は中位幻獣なみだと思うんだが――」
父親は迷子幻獣を不審そうにながめ回していたが、正体は分からずじまいだった。
耳にあるカフス型の魔道具がうるさく鳴る。
「召喚士協会からか」
ユディは魔道具のアラーム音が嫌いだったが、今日ばかりは喜んだ。
父親が仕事に出かけて行くきっかけになるその音がいつもなら憎いが、今日は歓迎した。
「お父さん、お仕事?」
「大変だ。暴竜オセロが召喚された。召喚士数名に重傷を負わせて逃亡中だ。
アレは呼ぶなというのに。危険なやつだってことが常識になってるのに。なんで試すやつが後を絶たないんだ。
事前申請もなしにやって、数日経ってから協会に失敗の連絡が来るとか――ああ、もう」
「いってらっしゃい! がんばってね!」
ユディは話の途中で、ぶんぶん元気よく手を振った。
早く行ってといわんばかりの娘の態度に父親は泣いた。
再びフェニックスの足にぶら下がると、シロを不審そうに一瞥する。
「ユディ、なるべくお母さんと一緒にいるようにね。
兄さんたちとでもいいけど、ともかくシロと二人きりは止めなさいね」
「はーい」
ユディはシロを信用していない父親を不満そうに見送った。
邪魔者がいなくなると、シロの手を取って帰路につく。
「暴竜オセロかあ。
オセロは黒竜でね、すごい強いんだよ。
だれも契約できたことがないから分からないけど、上位は確実。
竜族最強っていってる幻獣もいるから、上位より上の王獣クラスかもしれないんだって。
ひょっとしたら神獣クラスっていうウワサもあるくらいなんだよ。
ただね、性格が最悪なの。
召喚には気まぐれにしか応えないし、来てもいうこと聞かないんだって。
性格も自分勝手でイジワルなんだって。キョーボーでキョーアクなんだって。
シロ、幻界で見たことある?」
シロは何も知らない様子で、ただ静かにほほ笑んでいる。
鮮やかすぎる金色の目はギラギラしていて、ユディは少しだけ寒気を感じた。
しかし、シロの手を放しはしない。
「でも、それはそれでいいよね。
気ままで自由なところが竜らしいっていうか。
ああ、でもでもでも! オセロがだれかの契約獣になって、皆のために戦ったら、すっごくかっこいいだろうなあ。
そんなに強いなら大活躍まちがいなし! 完全無敵のヒーロー! そう思わない!?」
ユディは繋いでいる手を元気よく振り回し、勢い余って離した。
ついでにバランスを崩してよろめくが、シロに助けられる。
「ありがと、シロ」
自分の腕をつかむ手を意識して、ユディはちょっと頬を赤らめた。
どちらかと言えばいじめられっ子なユディは、元気のよすぎる男の子は苦手だ。
シロのようにおとなしい男の子の方が親しみやすく好みである。
微笑を向けられると心臓が跳ねた。
「シロ、私と一緒で楽しい?」
ユディには、今のシロの微笑はこれまでと違うように感じられた。
何がそうさせたのか分からないが、形だけだった微笑にちゃんと感情がこもっているように見える。
試しにもう片方の手も取ってみれば、指を絡められた。
初めて心が通じ合った気がして、ユディは胸がいっぱいになった。
「シロがずっと現界にいてくれればいいのにな。
私が召喚士だったら、すぐにでも契約するのに」
ユディは物欲しそうにシロをながめた。
「私ね、大きくなったら召喚士になるの。
お父さんやお母さんやお兄ちゃんたちみたいに、幻獣と一緒に皆の役に立ちたいから。
だからシロ、私が召喚士になったらまた来てくれる? 召喚してもいい?」
そらされない視線が、いいよ、と返事をくれているようだった。
ユディは覚えたての契約の呪文を唱える。
「我が声に応えし盟友シロよ。
誓いを守り、我が心と願いを共にせよ。
死が二人を分かつまで」
契約の儀をしたからといって、まだユディは召喚士ではないので意味はない。
ただ、一度マネをしてみたくてたまらなかったのだ。
誓いのキスは気恥ずかしくて控える。
「あっ、契約もしていい? 勝手にする気でいたけど」
シロはやっぱり無言だったが。
ユディにそっと誓いのキスをしてくれた。