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落ちこぼれ召喚士、最強竜を召喚してしまう
サモト
異世界恋愛人外ラブ
2024年10月17日
公開日
64,911文字
連載中
いじめられっ子な召喚士少女はある日、悪名高い暴竜を召喚してしまい…!?

いじめっ子も偉そうな上級生も嫌な教師も悪~いヤツラも。
だれも竜を止められない、敵わない、従えられない。
言うことをきかせられるのは主人公…だけ?

気弱召喚士少女×俺様最強竜のイチャラブ逆転劇、開幕!

※朝晩2回更新

1.ちいさな召喚士とまいごの幻獣

「開け、幻界げんかいの扉。

 我が心、我が願い、我が誓いを聞け。

 く来たれ、この呼び声に応じて。

 出でよ、我が朋友ほうゆう!」


 召喚士が杖をかざすと、虚空に展開された魔法陣から赤く燃える鳥が出現した。


 上位幻獣フェニックス。炎をまとう不死の鳥。

 甲高い鳴き声を一つ響かせ、馬車を追う魔獣に向かって一直線に降下する。


 朱金の炎が流れ星のように宙を駆け、魔獣とぶつかった。

 魔獣は魔力のたまり場で動物や植物が変質、変化してできる怪物だ。

 元は狼だったと思われる巨狼は、毛と肉の焼ける臭いをまき散らしながら、荒々しく敵に牙をむいた。


「焼き尽くせ!」


 召喚士の命令に応えて、フェニックスが鋭く鳴く。

 炎は火勢を増して魔獣を包み、十秒と経たないうちに黒焦げにする。

 馬車はようやく止まることができ、乗客から召喚士に拍手と歓声が送られた。


「――すっごいねえ!」


 ユディは広野を見下ろせる高台でぴょんぴょん飛び跳ねた。

 薄ピンクの髪を揺らし、髪と同じ色の目をきらきら輝かせながら、腕に抱えた小さな幻獣に早口に語りかける。


「見た、見た? フェニックスだよ。フェニックス!

 クラス上位。不死の特殊能力持ち。

 きれいだよね。燃えてなくても羽根は色とりどりで、長い尾羽がすてき。

 それでいて強いんだもん。火の魔法も風の魔法も使える。両方合わせれば広範囲攻撃もできちゃう。すごいよねえ」


 ユディはいつも持ち歩いている幻獣辞典を開いて、腕の中の幻獣に見せてやる。

 相手が読める読めないは関係ない。

 新しくできた友達と、ともかくこの感動を共有したい気持で一杯なのだ。


「ユディ、来てたのか。その幻獣はどうしたんだい?」


 魔獣を退治した召喚士が、フェニックスの足につかまって高台へ飛んできた。


 召喚士が大地に下りると、フェニックスはヒト型に姿を変える。

 幻獣が本来の姿を変えてヒト型になるのは、召喚士への好意の表れだ。

 ユディは父を誇らしげにした。


「三日前に山で拾ったの。お父さん、これ何かわかる?」

「どれどれ。幻獣辞典を丸暗記してるユディに分からないなんて。まさか新種かな?」

「姿はサラマンダーに似てるんだけど、細かいところが違うし。なんだろうね?」


 ユディは幻獣を両手で持ち、父と一緒にしげしげと観察した。


 サラマンダーは火の精霊で、姿はトカゲに似ている。体色は赤、目は黄色だ。


 ユディの拾った幻獣もトカゲに似た姿だが、サラマンダーより小さくほっそりしていた。

 体色は白で、目は鮮やかな金。尾は長く優美だ。

 繊細そうな印象があるが、サラマンダーと違って爪は鋭くウロコは厚い。

 口を開かせてみれば小さな牙がびっしりと生えていて、見かけによらず獰猛どうもうそうだ。


 口をこじ開けたユディの父がさっそく噛まれる。


「痛たたた。気性が荒そうだな。

 サラマンダーは穏和だから、こんなことくらいじゃ怒らないのに」


「じゃあ竜かな。竜の何かの変種?


 いいなあ、竜。強い幻獣といったら、の代表だよね。咆え声一つで他の幻獣たちが脅えちゃう。


 性格は荒っぽいし、牙も爪も鋭くて、ウロコは硬くて、シルエットはゴツゴツしてて見るからに怖いけど、かっこいいよねえ。飛んでる姿は本当にきれい。


 朝日を浴びながら飛んでいる姿を見たことがあるけど、ウロコが宝石みたいだったなあ。


 シロのウロコもきれいだね」


 ユディは再び幻獣――シロを抱きしめ、頭をなで、のどをさすり、頬ずりする。


 ユディは幻獣が大好きだ。しかしまだ幼い。いくら召喚の方法を熟知していようとも、幻獣を召喚することは許されない。


 召喚できるようになるのは所定の年齢になり、初級召喚士の資格を得てから。

 山で幻獣を拾えたことは降って湧いた幸運だった。


「シロはだれとも契約していないみたいなの。

 だれかが召喚して、契約はせずに放っておいちゃったのかな?

 それともたまたま開いた扉から、現界げんかいに迷い込んできちゃったのかな?」


「どうだろうね。

 どちらにしろ、ユディ。幻獣を幻界に帰してあげないと。

 お父さんが幻界への扉を開いてあげるから、送ってあげなさい」


「ええ!? やだ! まだシロといる!」


 ユディは幻獣を抱え込んだ。


「せっかく仲良くなってきたところなのに嫌。

 わざわざ送らなくても自然に幻界に帰っちゃうんだから、それまでシロと居させて」


「でもね、正体の分からない幻獣はどんな危険があるか分からないし」


「大丈夫だよ。シロは安全だよ。

 一緒に遊んだりごはん食べたり寝たりしてるもん。昨日はおふろも一緒に入ったし。

 最初は噛まれたし引っかかれたし炎吐かれたけど。今は仲良しだから。

 たまに噛まれるけど。うん。大丈夫」


「お父さん、大丈夫じゃない気がするけどな!?」


 父親はたくさん生傷を作っている娘を不安そうにした。


「愛情のゴリ押しはよくないよ。やっぱり幻界に帰そうね」


「やだーやだーやだー! シロと離れるくらいなら私も幻界に行く!」


「ナチュラルに死ぬっていわないで! 人間が幻界に行くっていったら、ほぼ死ぬのと同じだから。お父さん泣くよ!」


 父親がユディから幻獣を取り上げようとすると、迷子の幻獣に変化が起きた。


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