ひよりと麗歌は私を見て、微笑んだ後他の話を始めた。
私は頭の中にある疑問を消化できずにいる。
恋することが嫌になったわけではない。
ただ、うまく思いと考えが一致しないのだ。
恋じゃないと思う考えと恋だと言う思い。
自分の中の自分たちが揉めているように心の中がザワザワとする。
どうすればいいのか分からないまま、私はパンケーキを口に放り込む。
慣れない感覚。初めましての自分がいる。
頭の中でまとまらない間に、話が私に回ってきた。
「雪の名前の由来ってなんですか?よくよく考えれば、噂の雪くんも雪って感じが入ってますよね…」
そう言われればと思いながら、私は小学生の時の記憶を探る。
自分の名前の由来を調べる授業を受けた時、両親に聞いた。
確か…
「多分なんだけど…私が生まれた時、お母さんが私を見て、雪を思い浮かべたんだって。空から落ちてくる雪みたいに、私もお母さんの手に降ってきたから」
私が生まれた日、雪が降っていったって言うのもあるのかもしれない。
雪みたいにすぐ溶けてしまいそうだったとも言っていた。
弱々しくて、手放したくないと思ったらしい…
そう私が説明すると、ひよりが質問をしてきた。
「じゃあ、噂の雪くんってなんで雪って名前になったのかなぁ?男の子に雪って珍しーよね?」
私はひよりのその質問を聞いて、同じ疑問が湧く。
改めて考えてみれば、珍しい気がする…
気になって、私は携帯を開く。
雪くんとのトークルームを開いて、文字を刻む。
気になったことをそのまま聞いた。
私は携帯をポケットにしまって、話を続ける.
時間は意外と経っていた。時計が示すのは七時前。
私たちは話をとりあえず切り上げて、お店を出る。
駅の方に三人で歩いていく。
私は二人と別れる前に、今日の相談は一旦、三人の間での秘密にすることにした。
帰り道を進んでいく。
ワイヤレスイヤホンからは恋愛ソングが流れている。
リズムに合わせて、一歩を踏み出しているとポケットが震えた。
ポケットから携帯を取り出す。
そこには雪くんからのメッセージ。
雪くんは説明を言葉として文に落とすのが、苦手らしい。
電話で説明しても大丈夫ですか?と来ていた。
私は大丈夫とだけ伝えて、着信を待つ。
変にドキドキしてしまう。顔が暑い。
着信音が鳴る。
「もしもし…」
私は震えた声でそう、言葉を落とす。
なんて言えばいいのか分からなくて、なんとなく待ってみる。
そんな私の心を分かったかのように、雪くんは言葉を紡いだ。
「先輩、急にどうしたんですか?確か、名前の由来の話でしたよね?」
いつもとは違う落ち着いた声。
その声に脳が追いつかなくて、そわそわしてしまう…
きっとそんなに考え込まなくてもいい内容なのに、私は考え込んでしまう。
なんで、答えるのがいいのかな…
とりあえず、私は肯定の返事をする。
そんな私の弱々しい返答に雪くんは、返答をしてくれた。
「俺の名前の由来ですよね…確か、母が雪が積もってて、そこに日光が当たったら反射するのを見たらしくて…その時の雪が明るかったから、周りの人を明るく照らすことができる人になって欲しい。みたいな話だったと思いますよ。先輩はなんで雪って名前なんですか?」
私はそう聞かれてすぐ、麗歌たちに話した内容と同じ話をした。
雪くんにぴったりの由来を聞いたあと、私の由来を話すのはとても緊張する。
この名前に私は見合っているのか、自信がないから…
お母さんが私につけてくれたこの名前。
私は私で、この名前に見合う人間がどんな人間かって考えることがある。
綺麗で儚い、麗歌みたいな女の子がこの名前に見合っているはずだ。
私じゃ見合わない…
そんなことを考えてしまって、反応が遅れている私に雪くんは首を傾げる。
やってしまった…
雪くんが何かを喋っていたのは分かる。
ただ、何を話していたのか分からない…
どうしよう…
そうオドオドと悩んでいる私に雪くんは助け舟を出してくれる。
「先輩の名前って、先輩にとても合ってますよねー雪みたいに綺麗で、儚い…高嶺の花ですもんね、先輩」
きっと、雪くんはこれを言うのは二度目だろう。
なのに、決して嫌そうな顔をせず、優しい顔でそう言った。
私は雪くんのこの言葉で、心の何かがほぐれた気がする。
少しほっとして、電話の先の雪くんに向けて言葉を落とす。
「雪くんも名は体を表すの代表だよね。キラキラ明るくて、いつも眩しい…」
心からの気持ちを言葉に込める。
伝わったよね?
そう不安になる程、雪くんの声がしない。
何が起きているのだろう…
今度は私が首を傾げていると、雪くんが柔らかくため息をつく。
「先輩…そう言うこと、他の人に言っちゃいけないですからね?勘違いさせますよ…」
そう、雪くんは悲しそうに言う。
私は雪くんの言ってる意味が理解できず、とりあえず頷いていた。
そんな私の反応に雪くんは満足したかのように、会話を続けていく。
今日はなんだか変なことばかりが起きる…
いつもと違いすぎる一日に私はドキドキとしていた。
何かが変わってきている。