お昼休み、私は原因がわからないまま、仕事を終えて教室に戻る。
心臓の音は小さくなったけど、止まらない。
この音が怖くて怖くてたまらないのに、嬉しいのだ。
自分がおかしくなってしまった気がして、私は友達に相談することにした。
今日の放課後、予定が空いているはずの親友は二人。
ひよりと麗歌 れいか。
タイミングよく、話を聞かれると面倒な桜麗はいない。
ちょうどいい…
そう考えて、私は二人に声をかけに行く。
ひよりは三組、麗歌は二組のはずだ。
教室の近い二組から行くことにする。
「ねぇ、ねぇ…麗歌いる?」
そう聞くと、扉の近くで寝ていた女子がヒッと声を上げて、忙しなく動き出す。
なにか、怖いものでも見たの!?
私の後ろにもしかして、何かいる?
そう思いながら背後を見ていると、くすくすと笑う声が聞こえた。
落ち着いた綺麗な声。この声は、麗歌だ。
「何をしているの?雪。雪の後ろには誰もいないわよ。
それで、どうして二組に?私に用があってきたのじゃない?」
そう麗歌は私に言う。
私は、今日の放課後にカフェに行こうと誘って、麗歌と別れる。
麗歌は私が教室を去った後も笑っていた。
「南さん、雪の相手ありがとう。助かりました」
そうニコニコと笑いながら言う麗歌に、南さんと呼ばれた女子は顔を赤く染めながらコクコクと首を縦に振る。
麗歌は綺麗な笑い声を出して、グループ内に戻って行った。
次に向かうは、三組。
ひよりはどこにいるんだろう…
そう思いながら、教室の中をキョロキョロと覗いていた。
すると背後からトンッと音がした後、耳元で声がする。
「だーれだ!!」
そう楽しそうな、遊ぶような声を出して、私の目元を隠すのは一人しかいない。
「ひよりでしょ?こんなふうに登場するの日和しかいないもん」
私がそう答えると、背後から私の前に犯人は現れる。
ひよりはニッパーっと可愛い笑顔を私に向けて、言葉を発した。
「どーしたの?雪が三組に来るなんて珍しいねぇ…いつもなら連絡で終わりなのに、何かいいことあった?」
ひよりはそう嬉しそうに私に聞いてくる。
私はそんなひよりに放課後カフェに行こうとのお誘いをして、教室に戻ろうとした。
「また後でねー!!ゆーき!!」
そう背後から声がする。
振り向いて、私は手を振った。
ひよりはそのまま、教室に戻っていく。
私も急足で教室に戻った。
放課後。
私はひよりと麗歌と最近できたばかりのカフェに行った。
お店の前のホワイトボードには、苺たっぷりのパンケーキの絵が描いてある。
美味しそう…
そう思いながら、ホワイトボードを見つめていると背後から綺麗な声でくすくすと笑う声が聞こえる。
「雪たんはそれ食べたいの?可愛いねぇー」
ひよりが私にそう言う。
麗歌は孫を見るおばあちゃんのような目で私を見てくる。
私はひよりからの質問に首が取れるんじゃないかと、思うくらい縦に振った。
その姿を見ながら、麗歌はお店の中に入っていく。
私とひよりはその背中を追いかけるようについて行った。
とりあえず、各自食べたいものを注文していく。
そして、私たちはいろいろな話をした。
今日の授業の話に、推しの話、オススメのメイク道具とか…
そんなごく普通の女子高生の会話を進めていく。
私は今日の目的をすっかり忘れて、話し込んでいた。
すると、麗歌が突然話を振ってくる。
「それで、雪は今日どうしたの?話したいことがあって私たちを呼んだのでしょう?何かいいことがあったのかしら?」
私は麗歌の言葉で今日の目的を思い出す。
そのまま、雪くんを初めて会った時の話を始めた。
話をしていく中で、私の中に言葉が浮かんでくる。
その言葉は私の悩みの答え。
私はそうわかっておきながら、認めたくなくて見て見ぬふりをすることにした。
全てを話し終えると、ひよりと麗歌はお互いに見つめあってニマニマと笑う。
そのタイミングで、苺パンケーキが届いた。
私は店員さんからパンケーキを受け取る。
パンケーキを覆い隠すトロトロの生クリーム。
大きな赤い宝石が、白い生クリームの上にたくさん乗っていた。
これ、絶対美味しい…
そう思いながら、私は写真を撮る。
撮った写真に満足して、パンケーキを口に運ぶ。
うん、やっぱり美味しい。
私がもぐもぐとパンケーキを食べていると、麗歌は言葉を紡ぐ。
「可愛らしい悩みね…私にはこの話の中で、雪が自分なりの答えを見つけているように見えるけど…この相談をするってことは気づいていないのかしら?ひよりはどう思う?」
「うーん…私は雪らしい悩みだなぁって思ったよぉ。パズルのピースは見つけてるのに、はめ方が分かってない感じがするなぁ…恋に恋する雪らしいけどねぇ〜」
そう麗歌とひよりは、よく分からない会話をしている。
何が言いたいのだろうか…
私はクエスチョンマークを背負いながら、パンケーキを口に運ぶ。
「雪は恋愛下手ですからね…見た目は美人系だから恋愛に慣れているように見えますけど、中身は小さな女の子ですから…まだひよっこの状態なのに、大人な恋ばかりしてきたものだから、中身が育っていなかったようですね…」
「でも、今日の話聞く限りは雪たんの恋愛年齢は成長してきてる気がするなぁ〜心が年齢相応に急になったから、戸惑ってるって感じじゃない?」
そう、麗歌とひよりは解説をしてくれる。
恋愛年齢??何それ??
私はそう思いながらも、なんとなくパズルのピースがハマりそうだった。
ん〜。
考えに考えながら、真っ赤な苺を口に入れていく。
麗歌とひよりのいうことはなんとなく、わかる気がする。
間違っていないことはわかるのだ。
自分の心なのに、よくわからない。
ただ、二人がいうことが正解ではないことは明確に分かる。
なんとか、私の中から言葉を探し出す。
迷子になってしまった言葉を見つけようと頭を捻る。
私が唸っていたら、ひよりがニコニコと笑って言う。
「つまり〜雪たんは恋してるんだよ!!何にときめいたのかはあたしには分からないけど、そんなにドキドキするなんて何かの病気じゃないなら、恋だよ!!恋も病の一つだけどね〜」
恋…
その言葉は私の心の中にいたけど、それが当てはまるのかよく分からない。
恋じゃないと思いたい、だってもう恋しないって決めたのだから。
だけど、心のパズルはキチンとハマっている。
認めたい気持ちはあるのに、恋に飛び込む勇気はない。
恋心を閉じ込めたはずの蓋は段々とズレてきていて…
やっと気づけた今には半分ほど開いている。
恋することをやめる気持ちはもういない。
ただ、恋に向き合う覚悟がないのだ。
グラグラと揺れてしまう心は、私の頭を覆い尽くした。
どうしよう…