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第6話

翌朝──、宮殿は、天地をひっくり返したような騒ぎに襲われる。


「華蓮様!!大変です!!」


腹心三人組が、華蓮の部屋へ、慌てふためき転がり込んで来た。


「丹厳様が!!」


何事かと、その続きを聞こうとする華蓮を、邪魔するかのように何故か、高官付きの宦官が現れ、お出ましをと華蓮に謁見を急かしてきた。


訳も解らず、華蓮は、後をついてくが、どうも正門へ向けて向かっているようだった。


華蓮は、後ろに詰める、腹心三人組を見た。が、黙って着いて行けとばかりに、妙な視線を返してくれる。


暫く後、来賓を迎えるかのような、列が出来た正殿前の広場に着いた。


儀仗兵が剣を捧げ持ち、高官達が頭を垂れている。


ちょうど、摂政が誰かに一礼し、儀礼的な挨拶を行っているところだった。受ける相手は、まだ年若い男で、主の数々の無礼とやらを摂政に詫びていた。


そして、馬に乗った余十人の兵を引き連れた来賓たる男が、華蓮を目敏く見つけると、歩み寄ってくる。


何事が起こっているのか、華蓮はまだ理解していなかったが、歩んで来た人物に目を見張った。


「丹厳様?!」


「あー、華蓮様、申し訳ない!茶会の準備をと、街に出た所、あれに、捕まってしまって……」


あれ、と、呼ばれた若者は、おもむろに眉をひそめつつも、


「この度は、我が王の、無教養、無分別、無節制、ありとあらゆる、無知から、姫君、華蓮様には、多大なご迷惑をお掛け致し誠に申し訳ございませんでした。私、遼国りょうこく、第一書記官、西敬さいけいと申します。直ちに、こちらの不手際の責任を取り、王を連れて帰りますので、姫君も本日より、健やかな暮らしにお戻り頂けるはずです」


と、詫びて来た。


「いえ、私は……私は……」


動揺する華蓮に、まずい、とばかりに、腹心三人組が、ささっと、歩み出ると、かなりの切れ者らしき、第一書記官、西敬さいけいとやらに、極上の笑みを捧げ、


「まあ、そうでございましたか」


「こちらこそ、無知な者ばかりで、後宮では、歓迎の茶会を開きたいと……」


「何をまかり間違ったか、遼国王、丹厳様自らに、お好きな茶葉などお聞きして、共に準備に走るなどと……」


「なんとも、お恥ずかしいばかりの弾け具合で、宮も、混乱しておりました。これで、互いに、落ち着けますわね」


三人の息のあった口上に、西敬は、一瞬、顔をしかめたが、何事かを丹厳がしでかしたのであろうと、察したようで、こちらも負けず劣らずの笑顔を見せると、


「いやぁ、何やら、無事に収まり、誠にめでたい話しで、ハハハ」


などと、空笑った。


「そういうことで、華蓮様、私は、もう国へ戻らなければなりません」


どこか切なげに、口ごもる丹厳の姿を見た華蓮は、とっさに動いていた。


西敬が用意したのであろう、一国の王に相応しい、織り紋様の絹生地で仕立てた衣の袖を掴むと、しかと、丹厳を見た。


「丹厳様!茶会は、必ず!私、お待ちしております!」


「はい!必ず!!伺います!!」


どこか、蜜のように甘い空気が漂よう二人に、


「芽生え、どころか、すっかり、根付いてしまいましたわね……」


「これは、また!あの人ときたら!お三人方、誠に、申し訳ない!」


各々の腹心は、主達あるじたちの姿を見て、複雑な心境を隠せない。


さて、本来行うべきだった、来賓の出迎えを、遅ればせながらと、足を運んで来た玄国王、斉龍さいりゅうは、今、起こっている光景に面食らっている。


「まあまあ、これで、くだらない、茶会比べは、流れるでしょう。しかし、丹厳殿が、帰国されるとなると、寂しくなりますなぁ」


愛娘、華蓮が、男と寄り添っている。王、斉龍は、卒倒しそうになっているのに、脇では、息子、斉令さいれいが、うだうだ語りかけてくる。そんな、息子にもの申しげな顔を送ると……、


「父上、ここは、巫女の出番では?」


と、折よく言ってくれる。


「あー!!そうだ!これは、国の大事ぞ!斉令よ!」


何か気づいたかのように、はっとして、斉龍は走り去って行く。


その背中を見送りながら斉令は、


「いや、国王が、来賓出迎えと見送りを放棄してしまう方が、よっぽど国の大事でしょうに」


と、つぶやき、子煩悩過ぎる父の姿にクスリと笑った。

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