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第3話

後宮は、沸いていた。


王太子妃、耀我ようがが、勝負に出たと──。


当然、勝ちは、こちら。


その、並々ならぬ自信は、後宮から溢れだし、華蓮の宮へ、そして、宮殿中へと広がっていく。


それは王の耳にも入り、斉令さいれいが、呼びだされていた。


「……ですから、噂、ですよ、父上」


「噂、で、済まされる熱気ではないようだぞ、どうする」


「ど、どうすると申されましても、たかだか、女通しの意地の張り合い。それに、茶会を開くだけでしょう?」


「お前、何も知らんのか?!だから、その茶会だ!そこに、客人が呼ばれておる」


「まあ、茶会ですから……」


「お前なぁ、後宮からの招待状には、この私、玄国王の名と当然、お前、王太子の名が許可なく使われているのだぞ!」


斉令は耳を疑った。


「そのような事が……!」


「うむ、許されぬ」


申し訳ございませんと、斉令は、父王に向かって平伏した。


自分の妻である王太子妃の行いは、王太子の命と捉えられても仕方のないこと。


宮殿では、上位に付く夫と妻は、運命共同体なのだ。しかし、運悪く、こちらの夫婦仲は、こじれている。


「顔を上げよ、斉令よ。あの女は、やはり、相応しくなかったのかも知れないな。お前が、立太子したと周りが、浮き足だった。早急に、正妃を娶れと。そして、まあ、手頃などこの、派閥にも属さない家の娘を選んだのだがいけなかった……。年上すぎたか?」


前にいる、王は、父親の顔を見せて斉令の事を心配していた。


「まあ、私が、十五、あやつは、二十五、でしたからなぁ。いわば、行き送れ、が、いきなり頂点に立ってしまった訳ですから、そりゃあ、舞い上がるでしょう。慣れれば、妃の自覚が出ると思ったのですが、未だに、栄華を極めようと、下心が動き続けているのですから」


「まあ、お前が、外で羽を伸ばしたくなるのも分かる。が、何とか、上手くやれぬものか」


「私も、わかっておりますよ。ですが、宮に、こもっていては、父上、いえ、陛下。あの件が……」


「ああ……そうだったなぁ。すまぬ」


「さても、この茶会、波乱を呼ぶことでしょうね」


「いっそ、王主宰にしてしまおうかとも、思ったが、しかし……」


「なりません!あやつを、付け上がらせるだけです。ここは、何か、お灸をすえなくては……」


父と息子、いや、王とそのしもべである、王太子は、顔を付き合わせ、延々と話し込んだ。


そして、話し込む、もう一組の姿が──。


「それが、なかなか、良い趣向が思い浮かばなくて」


「おお!華蓮様、どうか、そのように、苦しそうなお顔をなさらないでください!」


離宮の庭では、華蓮と、丹厳が、茶会について話し込んでいた。


「丹厳様、もう少し、お離れください」


「姫様は、嫁入り前」


「男のあなた様が、ここに、いる、というのも、普通は許されぬ事なのですけれど?」


腹心三人組が、チクチクと丹厳をいたぶる。


「いかん!そうでした、私は、単なる、姫様のしもべそれを、このように、馴れ馴れしくも!」


丹厳は、飛び退いて、華蓮から距離をおいた。


「分かれば結構」


「ですが、もそっと、離れたほうが」


「ええ、そうそう、もっと、そうですね、あともう少し、後退って頂けると……」


三人組の勧めに従って、華蓮と適切な距離をとろうとした丹厳は、うわっ!と、声をあげた瞬間、どぼん、と、池に落ちていた。


「こ、これが、適切な、距離でございますか、お三人……」


池に落ち、濡れそぼつ丹厳の姿に、三人組は、クスクス笑った。

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