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第2話

不機嫌な斉令さいれいに連れられ、耀我ようがは、自分の住みか、後宮へと消えた。


皆、一様に、これから耀我の部屋で起こるであろう、かんしゃくという名前の修羅場を想像していた。


とはいえ、とりあえず、厄介事から逃げおおせたのだ。


「ああ、丹厳たんげん様がいらっしゃって、助かりました」


この離宮のあるじであり、玄国げんこく王の、愛娘、華蓮かれんが、ふうと、息をつく。


兄、斉令の正妃、耀我が嫉妬から、華蓮の腹心である、侍女のナスラに因縁を吹っ掛けてきた。


──後宮に属するわけでもないのに、王太子と、なさぬ仲になるとは、と。


そもそも、異国から、国交の証として送られ、王、斉龍さいりゅう端女はしためという身分として扱われていたのを、国元では、それなりの地位だったはずだと、専用のくらい、「一品側妃」なるものを華蓮が造出した。


そして、異国の知恵を活かしたいと、ナスラ、同様に、様々な国から送られてきた、インドク、マヤを腹心として、側に置いている。


王の女、ではあるものの、彼女達は、位的には、官吏の身。宮殿内を自由に闊歩できる。


そこも、耀我は気に入らなかった。


華蓮の宮へ乗り込んで来て、夫を寝とったと、泥棒ネコだの、女狐だのと、俗な言葉を、ナスラへ浴びせたのだった。


そこへ、賓客として、居座っている、遼国りょうこくの王、丹厳たんげんが現れる。


後は、夫婦の問題と、そもそもの根元を作ったであろう斉令に、耀我を押し付けた丹厳が、騒動を収めて華蓮達は事なきを得た。


はずなのだが……。


腹心の三人組は、なにやら、機嫌が悪い。


「それにしても、丹厳様、やってくださいましたねー」


「よりにもよって、耀我様と、勝負、だとは」


「あのままの流れで、良かったのです。それを……この方は、まったく」


インドク、マヤ、ナスラの愚痴のような、呆れみのような、つぶやきに、


「はあ、ですがね、そこの王、いつまでここにいる気?とか、耀我様に、噛みつかれては、ああ言うしかなかったでしょう?お三人?」


丹厳は、眉尻を下げながら、答える。


「ええ、確かに、そうですね、丹厳様をおもてなしするはずのお茶会は、いまだ開かれてませんもの……」


皆の会話に、華蓮が、ポツリと口を挟んだ。


「ああ、華蓮様!な、何も、華蓮様を責めている訳ではないのですよ!!」


三十路そこそこの、目につく美男という訳でもなく、どちらかと言えば、凡庸な男は、華蓮の落ち込み具合に焦りに焦る。


華蓮に一目惚れして、この大国、玄を震撼させる求愛を重ねて来たという行動力を持ちながらも、やはり、華蓮本人を前にすると、小国とはいえ、一国の王も、動揺するものなのか。


さて、図太いのか、空気が読めないだけなのか、計り知れないからと、真意を探るため華蓮主宰のお茶会へ招待する、と、いう口実で、丹厳は呼び寄せられたのだが、この男、その茶会は、いつ、開かれるのだろうかと未だに待っている。


普通は、旬座に、気がつくもの。自分は、試され、呼ばれたのだと。そうして、上手い理由をつけて、帰国するのものだが……。


この純朴で、裏表のない性格、いや、鈍感さが、何故か宮殿内では、馴染み始め、今では、裏方の問題に首をつっこみ、解決し、丹厳の人気は密かに上がっていた。


しかし、その口実であった、お茶会とやらを耀我に、ここで利用されるとは。


あれよあれよと、耀我の口車に乗せられ、結局、華蓮は、茶会勝負という、事態に引き込まれてしまったのだ。


「ああ、耀我様、張り切りますわよ!国元から、来賓を呼び集める事でしょうね」


と、インドク。


「……はたして、これは、丹厳様がいて、助かった……の、でしょうか?」


と、マヤ。


「何が何だか……」


と、ナスラ。


「あら!そもそもはナスラ様のしでかしに、よるものでしょ?!」


インドクが、ナスラにかみつく勢で言う。


「ああ、この大事に、仲間割れは、いけませんねぇ」


またまた空気を読むない発現を、丹厳が行う。


「そうよ!丹厳様の仰る通りだわ!」


つられた華蓮が、腹心達を叱咤した。


あらあら、何だかとうほうもない物が芽生えちゃって……、と、腹心三人組は、あきれながら顔を見合わせた。

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