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続・姫君は自らえにしをつかさどる
井川奎
異世界恋愛和風・中華
2024年10月17日
公開日
8,094文字
完結
大国、玄(げん)の姫、華蓮(かれん)は、格下の名も知られていないに等しい、小国、遼(りょう)の王に一目惚れされる。
熱すぎる求婚を受け、玄国は、揺れに揺れていた。

華蓮は自分が混乱の原因なのだと責任を感じ、遼(りょう)国の王、丹厳(たんげん)を呼び寄せ、事の真意を確かめようとする。

現れた王は、まるで空気の読めない男だった。ただ、純粋で裏表のない性格が、どこか憎めないと、華蓮含め、宮殿の面々と馴染んで、すっかり、玄国に居座っている。

一方、華蓮の兄、王太子、斉令(さいれい)の妃、耀我(ようが)は、華蓮の腹心である、女官への嫉妬から、茶会比べを挑んで来た。

行きがかり上、受けて立った華蓮は、これといった案が浮かばず。しかも、訪れた客の数で、勝負を決めると言われ、すっかり、困ってしまう。
が、丹厳は、なぜか、大張り切り。そして、すべてを丹厳に任せる事にするが……。

中華風、ほっこり後宮時代ロマンス

第1話

玄国げんこくの王、斉龍さいりゅうは、先程から渋い顔を弛めようとしなかった。


曲がりなりにも、陸の覇者と呼ばれているこの大国が、名も知られていないような小国と、縁続きになりそうなのだから──。


「巫女よ、一体どうすれば?」


「恐れながら、神の告知は、既に出ております。わたくしは、それを、お知らせする役目でございます」


王の前にいる女は、淡々と、己の役目を述べた。


確かに、言う通りではある。しかし、授けられた神託は、斉龍さいりゅうにとって、認められないモノであり、そして、絶対的に従うモノである、と、いう掟も理解しているが、さても、と、歩むべき道へ踏み出す事を躊躇した。


しかし、巫女あってのこの国。と、言って良い程、悠久の昔より、まつりごとにつまづいた王は、国が、抱える巫女の神託に従い、まことの道を歩んできた。


それだけに、巫女の発する言葉は、絶対であり、また、巫女の存在は、王とその跡を継ぐ者だけの秘密でもあった。


「……すまぬ、巫女よ。しばし、時を貰えまいか」


王は、気持ちの整理をしたいと、巫女に告げ、部屋を出て行った。


「本当に、子煩悩な方だこと」


巫女は、消沈した王の背中を見送りながら呟いた。


──その頃、宮殿の奥深く、王の側室達が居を構える後宮の手前。


広がる蓮池を望む様に建てられた離宮では、何やら、いさかいが起こっていた。


「わかりましたわ。その様に仰せになられますのなら、こちらにも考え方が、ございます」


「あら、あら、ナスラ様ったら、これは、やっちゃいますわね!」


緑眼白皙りょくがんはくせきの女が、どこか嬉しげに褐色の肌を持つ女へ、耳打ちしていた。


ナスラと呼ばれた、白銀しろがね色の巻き髪の女は、鬼の形相を向けてくる、王太子妃、耀我ようがに、言い放った。


「早速、国元へ、文を送りましょう。今後、一切、玄国へ、てんひょう麝香猫シベットなどなど、こちらでは、貴重な毛皮の取引を取り止めるように伝えます。何しろ、女狐と泥棒猫がいるのですから、そちらで、十分でしょう?」


「なっ、なっ、なんですって!お前、誰に向かって!」


耀我は、わなわなと震えている。


「いやー、これは、大変な事になりましたぞ。斉令さいれい様。あなた様が、妃様のお相手をきちんとなさらないから、諍いが起こるのですよ」


戸口で、男が王太子、斉令を引き連れ、わかったような口を利いている。


「まあ!相変わらず、空気の読めないお方だこと!」


「と、いうより、なんで、ここにいるのでしょう?あの方は。しかも、斉令様を引き連れて。妙に馴染んでませんか?マヤ様?」


「ほんとですね、でも、一応は、来賓ですわよ。インドク様、口をお慎みなされませ」


──我が妃よ。と、王太子、斉令が口重に妻である王太子妃、耀我へ声をかけた。


とたんに、耀我は、ひっと、小さく声を上げる。


夫の癖を知らぬはずがない。と、いうより、顔を会わせれば、結局、のの知り合いに終わる仲。その始まりは、常に、斉令の重い口振りからなのだ。


これから何が起こるのか、耀我が、一番分かっていた。

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