目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

半人前霊能者シリーズ ② 紡がれる力 第3章:紡がれる力

 頭から布団をかぶって現実逃避していたら、それまで慣れないことをしたせいと霊力を奪われたせいで、深い眠りへ一気に落ちていった。


 体が重ダルい――それだけじゃなく……。


「なんだか、どこかに縛り付けられているような感じがする?」


 マブタを開けるとそこは、見慣れた風景だった。傍には弓道部の部室があり、空を見上げたら黄金色の葉を付けた大きな木が、枝を風になびかせている。視線を落として体を見ると、真っ赤な鎖がこれでもかと巻き付いていて、ちょっとやそっとじゃ外れないようになっていた。


「どうして俺が、こんな目に遭ってるんだ!? もしかして博仁くんが、俺の体を使って炎を出したから?」


 冷や汗がたらりと額を流れていく。これじゃあ罰を与えられているみたいじゃないか、全然関係ないというのに。


「……関係ないワケじゃないよな。俺が自分の力を使って、進んで解放したんだから。彼の代わりに、縛り付けられているってことなのかな」


 それとも――。


「黙って、このままでいるワケにはいかない。悪いけど解かせてもらう」


 このままでいたら、イヤな予感がする。こうしちゃいられないっていう。


「ふっ、んっ~~~!!」


 両腕の力を使って引き千切れるかやってみたけど、まったくビクともしなかった。ムダに息が切れるだけなんて、すごく非力に思えてならない。


「そうか……。博仁くんが教えてくれたように、霊力を使ってイメージして解けばいいんだ」


 まだ完全に力が回復していないかもしれないけど、鎖を解くくらいの力は、なんとか残っているかもしれない。


「イメージ、イメージ……鎖を解くんだ。引き千切ってみせるイメージを――」


 目を閉じて頭の中に念じると、手で引き千切った手ごたえを二の腕に感じた。硬かった鎖が伸びていくので、体が出せるまで伸ばしきることで、無事にそこから脱出する。


 ほっとして一歩踏み出したら、いきなり暗い闇に体ごと落とされた。


「うわあぁあぁっ!」


 気がついたら、自分の部屋のベッドの中だった。飛び起きて汗でびっしょりな額を拭ったときに、どこからともなく声が聞こえてくる。


『やめろっ、来るな! 僕はまだ』


「この声、博仁くんの声だ……。どこにいるんだろう?」


 俺の霊力をとっていったからなのか、繋がっているような気がした。


「そんなに遠くない場所にいそうだな。行ってみよう!」


 ジャンパーを羽織り、お守りの数珠を片手に部屋を飛び出し、玄関を目指して階段を駆け下りた。


「なんだい、騒々しいね。こんな遅くに」


 リビングからのん気な表情を浮かべた母さんが、ひょっこりと顔を出した。その姿をチラッと横目で見て、投げかけられた言葉を華麗に無視し、黙々と靴紐を結んでいく。


「どこに行くの? ウチの外出時間は、とうに超えているんだよ」


「ちょっとそこまで。すぐに戻るから」


「……霊体になって、戻ってくるかもしれないのに?」


 その言葉をすごく重く感じてしまい、手にした靴紐がハラリと解けてしまった。


「やれやれ。好きになった女のコが幽霊の次は、憧れたコが幽霊でしたって、本当に間が悪い息子だこと」


「だって……身の回りに霊に関して、相談できる友達がいないし。母さんはこんなだし」


「こんなので悪かったね。お前のような半人前の面倒が見られるのは、私くらいしかいないんだよ。しかもこれから出かけるとか、不良になりたいのかい。この、半人前不良霊能者め!」


 ばこんと頭を、平手で思いきり叩いてきた。


「いったいなぁ、もう!」


「ちょっと待ってなさい。一緒に行ってあげるから」


「えっ――!?」


 一緒に行くって、どうして――?


「なにを不思議な顔してるんだい、当然だろ。霊力が回復していない可愛い息子を、みすみす死なせるワケにはいかないでしょ、まったく!」


 吐き捨てられるように告げられた言葉だったけど、それでも言葉の端々に愛情が感じられてしまい、照れくさくなって思わず俯いてしまった。


 こうしてふたりで向かった先は、通学路の途中にある憩いの公園だった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?