目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

半人前霊能者シリーズ ② 紡がれる力 第1章:半人前ゆえに……2

***


「なんだい、辛気臭い顔して。疲れ果てたサラリーマンみたいだよ」


 帰宅した俺に向かって、相変わらず辛辣な言葉を吐く母さん。


「うっさいなぁ、もう!」


 鬼ババのクセにと内心思いながら目の前を通り過ぎようとしたら、頭の上になにかを乗せられた。


(こんなところに、物を乗せるなよ……)


「ん? 饅頭?」


「3時のオヤツだよ。遠慮せずに食べな」


「……しかも、ちゃっかり賞味期限がきれてるけど」


 渋い顔して、饅頭の裏側に記載されている日付を母さんの顔に向けてやると、なに言ってんのとカラカラ笑った。


「大丈夫さ。1日くらい過ぎてたって、腹は壊しゃしないから。お昼のデザートに食べたけど、あたしのお腹は受けつけてくれたよ」


「いらん」


「ああ、可哀想に! せっかく仏壇にお供えしたものをあり難く戴かないなんて、そんな息子に育てた覚えはなくってよ」


 下手っくそな演技で泣き崩れる母さんに、呆れ果てるしかない。


(学校は学校で例の問題のせいで頭が痛いというのに、自宅ではコレだもんな、まったく)


「分ったよ、食べるから」


 饅頭をテーブルに置き、台所で手を洗ってから椅子に座った。目の前にはウキウキ顔の母さんが不機嫌な息子を見て、小首を傾げる。


「そんでお前、どうしたんだい? また、キレイな女の子に恋しちゃったとか? 残念なことに幽霊だったんだろ」


「その方が早く解決するだろうね。事態はもっと最悪だよ」


 眉間にシワを寄せて饅頭を頬張ったら、自動的に温かいお茶を出してくれた。


「最悪な事態?」


「そうだよ。学祭のクラスの出し物で、俺の霊能力を使おうってことになっちゃってさ」


「そりゃ面白そうだね。たくさんの悪霊を引き連れて、あたしが行ってやろうか?」


 息子に試練を与えることを、嬉々としている母親である。言ったことを実践しそうで、非常に怖い。


「対処ができないのを知ってるクセに、酷いことを言うなって」


「まぁまぁ。半人前のお前に、ピッタリな企画じゃないか。なにが嫌なんだい?」


「その半人前の中途半端具合を、クラスの奴らが分ってないからさ。なにかあったら、どうするんだろうって心配なんだ」


 そのなにかあったときのことを考えて、クラスの奴らに分かるように説明をした。そしたら――。


「ただ幽霊が憑いてるかどうか、視るだけになったんだ。それにプラスしてタブレットのアプリで、占いもやってみようってことになった」


 経費削減もいいトコだ。こんなので、本当に人が集まるんだろうか。


「ふーん。なにはともあれ、経験を積むしかないからね。いい修行じゃないか、頑張りな」


 宥めるように頭を撫でてくれる母さんに、うんざりするしかない俺。いろんな不安を抱えながら、当日を迎えたのだった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?