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「三神、ちょっといいか?」
次の日の昼休み、弁当を食べ終えて昼寝をしようと机に突っ伏しかけたときだった。クラスメートの岡田と鈴木が目の前に現れ、恐るおそるといった感じで俺を見る。
「何か用?」
「お前ン家、霊障相談とかやってるんだって?」
その質問に、思わず俯いてしまう。これのせいで自宅にオバケがいると小学生時代に噂され、クラスメイトに苛められた経緯があった。
(――だけど隠したって、その内バレるしな……)
「ああ。母親がやってる」
メガネを押し上げながら思いきって告げてみたら、岡田にいきなり肩をバシバシと叩かれた。
「お前から母さんに、頼み事をしてもらえないか?」
鈴木は机の上に、一枚の写真を静かに置いた。
「俺ら、写真部で活動してんだけどさ。来月のコンテストに向けて、校内のあちこちで、写真を撮りまくってたんだ。そしたらその内の一枚が、ちょっと怪しくてな」
岡田と顔を見合わせながら丁寧に鈴木が説明をし、それに合わせて写真を指差してくれた。
「夕日をバックに、音楽室にあるピアノを写したんだ。パッと見、いい感じに見えるだろ」
「ああ。夕日の赤い色が音楽室をあったかく包んでいて、ピアノから優しい音楽が聞こえてきそうな感じに撮れてる」
「サンキュー。いい写真だけにおしいんだよ。隅っこに写ってる、これさえなきゃな」
その部分を、人差し指でぐるっと囲んだ。
よく見たら、半透明の腕のようなものが、ピアノに向かって伸ばされてるのが、バッチリと写っている。
(メガネをかけていても霊の存在が分かるって、もしかしてすごい写真じゃないのか!?)
「これは……かなりヤバそうな写真だな」
「お~、祟られそうだろ。だからお前の母さんにお願いしてさ、祓ってもらってくれよ。俺、まだ死にたくない」
鈴木が自分の体を抱きしめながら、ぶるぶると震えるふりをわざわざする。
「その場に俺もいたからさ、正直怖くってな。同じく祟られたくないから、ヨロシク頼む!」
岡田は俺に向かって、南無南無と念仏を唱え頼み込んだ。
「分かったよ、俺から頼んでみる。お前らが祟られないように、しっかり除霊してもらうから安心しろ」
ニッコリ微笑むとふたりに抱きつかれて、口々に感謝を述べられた。
しかしながらこの写真を母さんに見せても、間違いなく放置されるであろう。何故ならば――。
「これも修行のため、とか言いそうだよな。実際……」
ふたりが安堵しながら去って行く姿を見ながら、ポツリと呟いてしまった。
音楽の授業は何度も音楽室でやっているけど、それらしい気配を感じたことはない。ということは放課後に写真撮影したとき、たまたま浮遊霊がふらぁっと現れた可能性がある。
(今日はまだ一体も浄化していない。力は十分に残ってる!)
「クラスメイトにもたらされた霊障相談を、この三神優斗様がちょちょいのちょいと解決してやろうじゃないか」
鮮やかに解決した様を思い描き、ニヤけそうになる顔を抑えながら、軽い足取りで放課後、誰もいない音楽室に向かった。