真っ暗なリビングに僕はいました。テレビもクーラーは起動しているので、停電ではないようです。ただ、家中の照明だけが何故か切れています。ブレーカーを探さないと。そう思って歩き出した瞬間、椅子に足をぶつけ、その場に僕は倒れ込んでしまいました。
「メイちゃん」
2階から、しわがれた声が近づいてきました。
「メイちゃん、メイちゃん」
廊下から姿を見せたソレは、テレビの光を浴びているソレは、赤い目をしたぬいぐるみです。赤ん坊サイズの犬のぬいぐるみでした。 赤い目。犬のぬいぐるみ。メイちゃんという名前。僕の中でさまざまな符号が一致します。あのぬいぐるみもまた【本家】が出品していたものです。送ってきたのはおそらく例の迷惑老人。犬を殺された仕返しに、奴は僕に呪具を送りつけてきたのです!
「メイちゃん、メイちゃん」
ゆっくりとぬいぐるみが近づいてきます。その手にはいつの間にか料理包丁が握られていました。
「メイちゃん、メイちゃん」
後退りをしながら僕は思いました。ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな! なぜ僕がこんな目に合わなくちゃいけない? だって、最初に迷惑をかけてきたのはあっちじゃないですか! 集積所を荒らして、みんなに迷惑をかけて、注意されているのに続けて! そんな奴、報いを受けて当然じゃないですか!
――ぬいぐるみが、僕の目の前までやってきました
分かりますよ。だからって犬を殺すのはやりすぎだって言いたいんですよね? 大事にしていたペットを殺したんだから恨みを買うのも当然だ、そう言いたいんですよね?
――赤い目をした犬が、料理包丁を高くかかげます
もしあなたがそう思っているのなら、僕がいま報いを受けることを当然だと思っているのなら
お前もこっち側ですよ。