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◯転売の話3

 もやき氏の生配信を見終わった後、僕はしばらく真っ黒になった画面を見つめていました。これは、一体どういうことでしょう。部屋の奥から聞こえた何かが落ちる音、パタパタパタと子供が走るような足音、何度か入り込んでいた女性の声、そして突然消えた部屋の電気。

「お客様」

 気づけば終点でした。


 電車を降りた僕は、改札を出るとロータリーに停車しているタクシーに乗り込みました。運転手に行き先を告げ、再びスマホを開きます。画面は、もやき氏の配信が終わった時のままです。彼に一体何が起きたのでしょう。それに、ところどころ入り込んでいた女性の声。「ふざけるな」「偽物」。そして最後は「ハナサワタカシ」。ハナサワタカシ。そう、僕はその名前をどこかで聞いたことがあるのです。しかしパッと思いつく知り合いにそのような名前の人間はいません。SNSのアプリに切り替え、フォロワーに目を通してみます。しかし結果は同じでした。グーグルで検索をしてみます。有名人でもないようです。仕事で一緒になった人物だろうか。家に帰ったら名刺を見返してみようか。ただ、なんとなくそうではない気がしています。ハナサワタカシ。僕は、彼の名前をどこで知ったのだろうか。

「あ」

 思わず声が出ました。同時に背筋に冷たいものが走ります。ハナサワタカシ。聞いたのではありません。僕はハナサワタカシという名前を見ていたのです。メルカリのアプリを開き、【本家】のアカウントを探します。そして出品物一覧のページへ。ありました。


 「ハナサワタカシさん専用」。


 そう注釈が書かれた商品が【本家】の出品物の中に合計3つ。一つ一つの商品を僕はじっくりと見てみます。


 まず、「ハナサワタカシさん専用」の商品は【本家】がこれまで出していたものとかなり雰囲気が違っていました。人形とか置物とかお面とかそういった感じのものではありません。一番古いのは絆創膏です。未開封の新品、少なくとも画像からはそのように見て取れました。他の出品物は腕がなかったり、焦げていたり、欠けていたりしているのに、「ハナサワタカシさん専用」の絆創膏は全くの未使用なのです。次に出品されていたのが松葉杖。それから車椅子。全て新品のようで、そして値段は1円でした。


 コメントがついていました。絆創膏、松葉杖、車椅子。それぞれ1件ずつ。コメント主は「もやき」です。


 まず絆創膏へのコメント


――「なにこれ。俺の名前なんだけど笑」


 次に松葉杖へのコメント。


――「いい加減にしてください。訴えますよ」


 最後に車椅子へのコメント。


――「ごめんなさい許してくださいもうしませんごめんなさいごめんなさいごめんなさい」



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