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◯転売の話2

 もやき氏の動画はお世辞にも行儀が良いとは言えない内容でした。彼のチャンネルに挙がっている他の動画をチェックしてみます。


 「墓地で花火をしてみた」

 「ファンからプレゼントが届きました」

 「お守り、焼いてみた」。


 大抵は似たり寄ったりの動画でした。 その中に「メルカリで稼ぐ方法を教えます」という動画がありました。生配信のアーカイブです。公開されたのは1ヶ月前。これが最新の動画でした。



◯生配信のアーカイブ映像


――タイトル メルカリで稼ぐ方法を教えます


 ――内容 配信されているのはアパートの一室。広さは8畳程度。よくある小綺麗な一室、と言った感じ。


 もやき氏、こちら(つまりはカメラ)を見てあぐらをかいている。カメラはそんなもやき氏を見上げる構図となっているため、床に直置きされていると思われる。


 部屋の広さに対し、家電や家具は多くない。ただしそれは物が少ないという意味ではなく、代わりにダンボールや個包装された小さな箱があちこちに置かれている。もやき氏の背後には扉が一つ。おそらくは廊下に繋がっていると思われる。


 もやき氏、喋り始める。


もやき氏「はい、どうも。もやきチャンネルです」


 もやき氏、胸の前で両手を合わせ大文字のMの字を作る。人差し指に絆創膏が貼られている。


もやき氏「今日は俺のビジネスのやり方を説明します。これ、かなり価値のある情報だと思います」


 ガタン、と部屋の奥から物音がする。 もやき氏、振り返る。


 数秒の間、もやき氏はその方向を見たまま黙っている。カメラに背を向けているため、もやき氏の表情は見えない。 もやき氏、ハッと我に返ったようにしてもカメラに向き直る。


もやき氏「あ、すいません。えっと、そうだ。俺がやっているビジネスの話ですよね」


 パタパタパタ、と子供が走る音が聞こえる。ただし、もやき氏はそのことに気づいていない。


もやき氏「いきますよ?」


 もやき氏、段ボールの中から市松人形を手に取り、カメラの前にもってくる。


もやき氏「じゃーん!」


 市松人形、おかっぱで赤の着物を着ており、右手を腰の高さまであげている。


もやき氏「これ、普通の日本人形に見えるでしょ? でも実は、マニアの中でかなり価値があるらしいんです。そう! 俺がやっているのは転売です! これがマジでおすすめ。この人形、1000円で仕入れて次の日には2万で売れました。ヤバくないですか? しかもこれ、似たような人形がAmazonに大量にあるんですよ。だから、1回売って終わりじゃないんです。無限に仕入れられるんです! え、それってつまり偽物じゃないかって? 大丈夫です、ほとんど見た目も同じなんで」


 「ふざけるな」と女性の声が聞こえる。もやき氏はそのことに気づいていない


もやき氏「じゃあですよ。その仕入れ先はどこなのかって話じゃないですか。すいません! それはまだ言えないです。あ、でもどっかのタイミングで話すかもしれません。なのでぜひチャンネル登録をお願いします」


 「偽物」と女性の声が聞こえる。もやき氏はそのことに気づいていない


もやき氏「普段はね、心霊スポットとか行って面白い企画をしているんで、良かったらそっちも見てください!」


 「ハナサワタカシ」と女性の声が聞こえる。もやき氏はそのことに気づいていない


もやき氏「じゃ、もやきでした!」


 部屋の電気が消える。


もやき氏「あれ? え?」


 生配信、ここで終わる。

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